コラム:咲 阿知賀編その7〜いろいろなところにある「きっかけ」〜 ※使用している画像について 今回は既に単行本化されている範囲では本編・阿知賀編共に単行本から撮ってきました。 2013年2月の段階で未収録のもの、あるいは見開きのページなど私の環境では撮りにくいものについては ヤングガンガンまたはガンガンの雑誌から引用しています。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
だんだん表題付けがわけわかんないことになってきましたよ? 阿知賀編コラム7回目です。 それにしてもまぁ不思議なもので、私が自分のホームページで阿知賀編のコラムを書いていると言う 去年の今頃は何となく思ったことはあってもまだ実行に移してはいませんでしたし・・・ (というか始まったばかりの準決勝先鋒戦の行方にただ戦々恐々としてた覚えが) 脱線するのはいつものことなんですが、一つの作品にこんなに入れ込むことになるとは予想もしませんでした。 この一年の間に、振り返ってみれば色々ありましたけど、阿知賀編に関連して個人的に特にうれしかったこと二つ。 一つは前回のコラムの冒頭でも触れましたが、ネット上で同じ玄ちゃん好きの方を見つけられたことです。 同じというか私以上ですね。こんなにすがすがしく「負けた!」と思ったこと、めったにないです。 準決勝が始まってしばらく、玄ちゃんに注目していると、ホントいいところがなく 特に6〜7月頃は応援をやめる気はさらさらないけど、やっぱり軽くへこんではいましたので、 この方のブログを見て、おおっ!とエネルギーをもらった気がしました。 「花もて語れ」のことを知ったことと言い、この機会にめぐりあわなかったら 玄ちゃんと阿知賀のファンではあることに変わりはなくても、多分この一連のコラムは書いてないです。 もう一つは今年に入ってから。アクセスカウンターが急に伸びた時があったのですが 私のコラムを見て、ご自身のブログで紹介してくださったそうで、その方からメールをいただきました。 その際ブログも拝見させていただきましたが・・・私よりもよっぽど多岐にわたって考察されているので 紹介していただいて、まったく恐縮すると言うか何と言うか。 何度も書いてますけど、「私はこう思う」というだけで、合っている保証は全くなく、要するに自信はありません。 ですから、紹介記事やそのコメントで「わかる」「よく書けている」と言ってもらえるのは、ホント、ありがたいことです。 「おかげで松実姉妹のことがもっと好きになった」というコメントを見た日には・・・もう、感無量としか。 何と言いますか、自分の思いもよらないところからつながることってあるんだなぁとしみじみ実感させていただきました。 ありがとうございます。 ちょうどまあ、そんなことを考えていた時期だったので 2月発売の3月号を読んだ時には、個人的にちょっと感じ入るものがありました。
全国に至るまでの公式戦で、淡が本気を出したのはこの一局だけ。 もし、多治比さんが西東京予選決勝大将戦の卓についていなければ 淡の力を察知するだけの感受性がなければ 察知していても、こんなふうに表情に出す子でなければ 赤土さんの対策は不十分なままに終わっていたでしょう。 そういう意味で、もちろん本人には全然その意識はないですし、そもそも面識さえありませんが 今後の勝敗の帰趨はまだわからないにしろ、準決勝で闘うきっかけを作ってくれたという意味で 多治比さんは穏乃の間接的な恩人だと言うことができます。 「個人戦の成績もすごいよ」とのことだったので、 阿知賀は誰も出てないけど、あるいは西東京の個人戦代表の一角として、インターハイ会場に来てるかもしれないですね。 会ったらぜひ応援、せめて挨拶はしてあげてほしいなぁ。もっとも本人は「??」でしょうけども。 まったく、いろんなところに「縁」てものは見え隠れしているものですね。 もちろんそれを生かせるかどうかは運と努力次第、ですが。 そんなふうに私に色々きっかけをくれた阿知賀編も、次の4月号で最終回です。 これを書いた後、ほんのあと数日で結果が出ます。 どこが勝とうと、あるいは阿知賀が負けようと、選手たちが納得できる戦いをしてくれたらもうそれでいいよー と覚悟を決めて、でも「ど、どうなるんだろうなぁ・・・」と内心オドオドしながら 残りわずかな日数を指折り数えて待っているところです。 さて、コラム7回目。今回もコンセプトは前回・前々回と同じです 場面描写や台詞をヒントにあれこれと考えてみようというものです。 前回が主に阿知賀で、今回もやはり阿知賀関係、 それに若干無謀ながら新道寺・白糸台、他校についても私なりに推測してみようと思います。 例によって例のごとく、付き合ってやろうかという暇があれば、以下へどうぞ、お願いいたします。
準決勝大将戦、前半が終わった後の休憩時間 感傷にひたるかのように一人対局室のイスに座ったままの穏乃のもとに憧がやってきます。 憧・・・その格好でカメラのある試合会場に出てきても平気なのか とかそういうことは、もうこの際どうでもいいとして
言うまでもなく「11回」とは、決勝の半荘2回×5人を含めてのこと。 試合真っ最中の穏乃が決勝行きを固く信じている一方で 自分は対局を終えて、後は結果を見届けるばかりの憧は 願望ではあっても同意したとは言い切れない返事を、つぶやくように静かに返す。 確かにこの時点で阿知賀は3位ですし、先のことはわからない。 でも・・・そう、憧って結構、心配性ですよね。 改めて、ここ、この場面に至るまでの憧を振り返ってみると、彼女の負けん気の強い一面を色々と見ることができます。
このように、目の前にある「壁」に向かって冷静かつ気丈に押し返す様子がしばしば見られます。 ということで、強気な子?・・・かと思いきや、逆に誰よりも早く動揺している場面もこれまた随所にあります。
もちろん人間ですから、一つの感情やパターンで判断し行動しているわけではありません。 その時々でいろいろな表情を見せる。それ当たり前。 しかし、こうして振り返ってみると、やはり憧は頭の回転の速い子なんですね。 1話で阿知賀で全国を目指すと言いだした穏乃に対して、「しずは本当に計算ができないな・・・」とぼやいていますが そう言うだけあって、憧はかなり計算をして行動している子だと言うことができます。 というのも上記のそれぞれ3つずつの例を振り返ってみますと、 憧にとって、それが「自分の計算の枠におさまるものだったかどうか」によって、反応が大きく違っているようですから。 晩成と当たるのは元々わかっていたこと、 玄が苦戦することも相手はエースだから「織り込み済み」とはっきり言っていますし セーラが手ごわいことも「やっぱり」と予期できていたことです。 だから、それぞれ相応に厳しい事態でも、冷静に受け止めることができています。
頭の回転が速い、賢い人にしばしば見られる思考の傾向として 頭が良いゆえに、いろいろな可能性を考えてしまう。 端的に言うと、人よりも「物事を悪い方向に考えがち」になります。 つまりリスク、物事が自分にとって危うい展開になることをまず危惧し、 それを克服するためにはどうしたらいいか?ということをさらに考え、行動する。 憧の思考の基本姿勢もまた、これに準じたものだと言えるでしょう。 そういう意味で、渋谷さんのハーベストタイムに関する憧の対策は、 記憶力を要すると言う点で憧にしかできない、というだけでなく 方針の点から見ても非常に憧にふさわしいものだと言うことができます。 役満を狙って和了ることのできる渋谷さんと相対するにおいて 最大のリスクは、何といっても「自分が役満の直撃を受けてしまうこと」です。 これを避けるため、最善策は渋谷さんが収穫完了する前に早々に流してしまうことですし、 それができないなら、手牌を記憶しておいて、せめて自分がロンされないように慎重に手牌を切る。 最悪にならないように、回避に回避を重ねて進めていく・・・いかにも憧らしい。 先ほど挙げた「誰よりも真っ先に動揺を見せる憧」の3例にしても 想定外のことに出くわしたうえで、そこから導き出される最悪の事態がすぐに頭をよぎってしまうからこそです。 たとえば、2回戦でピンチに陥った穏乃を見て、真っ先に「ここで敗退?」と思ったのは、 憧はそれほど穏乃を信じていないのでは?とか、そういうことではありません。 「これはさすがに千里山と劔谷で決まりでしょうか」と針生アナウンサーも、 基本中立の立場でありながらそう解説していたほど、その時点で非常に高い可能性でした。 ここまで振り返ってきた憧の思考方針を考えれば、むしろ「考えないわけがない」ことだと言えるでしょう。
強気に見えて、思いのほか悲観的というか、心配性の憧 いつからそうなったかというと、最初からです。
また、コラム5で『阿知賀5人が個人戦に出場しなかった理由』について 「和が団体戦を勝ち抜ける学校に行ったと思っていた」「個人戦を勝ち抜けると言えるほどの余裕がなかった」 私はこの二つを挙げました。
幼なじみの穏乃とは違い、明確に方針を持ち、計算して自分の道を決めてきた憧 車のアクセルのような穏乃の勢いも麻雀部にとってかけがえのないものですが、 アクセルだけでは下手するとコースアウトしてしまうわけで。 上級生3人が、それぞれなりに支える働きはしてくれても、それほど自己主張の強いキャラクターたちではないだけになおさら、 勢いをコントロールできるブレーキ、またはハンドルになれる憧の存在もまた、麻雀部にとってやはり貴重なものです。 そして、憧が普段こういう考え方をする子であるだけに
そうそう、憧の心配と言えば、上でも画像付きで紹介しましたが、 赤土さんに熊倉さんからプロ入りの誘いが来ていることを耳にして 「ハルエ・・・あたしらをダシに使ったの・・・?」 と、半ば呆然と呟き、そんなわけない!と声を荒げる灼に対して 「見放され気味なんだよ!」と言い返した場面を、もう少し詳しく触れておきたいと思います。 結果的には杞憂でした。 それどころか、準決勝に備えて、いろいろな準備をしていたことが順々に出てきて それらは阿知賀が準決勝に臨むにあたり、大いに機能しました。 しかし・・・となると、むしろ「なんであの時疑ってしまったんだ?」と思ってしまうかも。 確かに赤土さんは白糸台対策を念入りにやっていました。 宥姉・憧・穏乃には、それぞれの対戦相手の特徴を。 灼には灼の打ち筋がある程度見抜かれていることを見越したうえで、 意表を突く意図をこめて、昔の自分の打ち筋を教え込む。 玄はどうにもこうにも相手が圧倒的なので、せめてとドラ復活のための準備をしておく。 (それにしても赤土さんの分析が有能であればあるほど、それでも手の打ちようのない照って・・・) 5人に対してそれぞれに合ったアドバイスなり訓練なりを用意してくれていたわけだから、 「ここまでやってくれてる先生が見放すとかそんなわけないだろー」 ・・・と、総合すると思えてしまい、 あの時疑ったのは何だったのか、と見えてしまうかもしれません。 でも、ここで一つ注意してもらいたいと思うのは、この白糸台に関わる戦法について、 全てに共通しているのは、赤土さん、部員が一人でいる時に、個別に伝授していることです。 宥姉・穏乃に対しては、それぞれはっきりと視聴覚室・公園(※日比谷公園がモデルだそうです)でのマンツーマンでしたし 玄・憧についてはどのタイミングで話を持ちかけたのかはわかりませんが いずれでも他の部員が「?」と思っているわけですから、少なくともみんなの前で話したことではありません。 (ドラ切りのことが念頭になかったあたり、玄については先鋒戦終了〜次鋒戦開始の間あたりでしょうね) 灼に関しては、「意表を突く打ち方」というのは白糸台に限らず、どこが相手でも使う場面次第で有効に働くので 逆に言えば、あえて白糸台だけを意識した対策であるとは言えないと思いますし、 やっぱり他のメンバーにもわかるような形で教え込んだような描写はありません。 つまり、コラム3の最後でも似たようなこと書きましたが、読者(私)と、登場人物たちとの視点の違いです。 話を読む立場は全部を知り、まとめてみれば、赤土さんが部員のためにすごい労力を払っていたことがわかるのですが 部員たちが事前に把握していたのは、あくまで自分に対してだけであって、 全員のためにそこまでがんばってくれていたことはわからなかったわけです。 しかも宥姉は全国大会に出発する前である一方、 穏乃には東京入りしてから(前日は雨でしかも特訓で外出していたので、たぶん当日の朝)と、時期もバラバラ。 部員がそれぞれ教わったことを、前もって他のみんなに話していればまた印象も違ったと思いますが なんせ相手は現在2連覇中・全国ランキング1位の圧倒的に格上 蓋を開けてやってみないことには、「これでバッチリだよ!」とはとても言える気がしません。 そういう意味で、前半戦が終わり、休憩時間になってから憧が渋谷さんについて話し始めたのは とても「らしい」感じです。 前半戦終了後の収支と、後半戦オーラス時に、淡が「前半戦はあの1年坊に速攻で流されちゃったけど」と 言っていたことからもわかるように、前半戦は対策ががっちり上手くいきました。 その手ごたえを感じることができてから、ようやく憧も口にすることができたのでしょう。 それにしても、赤土さんはよくがんばっています。 今年採用されたばかりの新米顧問とは思えないほど、精力的に仕事をしています。 しかし、がんばっていますが・・・でも、だからこそ思います。「もったいない」と
かつてのトラウマゆえに「ここぞという時に力が出ない」と言う赤土さんですが そういう性格が、この辺の指導の仕方にも表れている気がします。 おそらく部員同様、実際にこの目で見るまでは、 みんなの前でこうだと言いきれるほどには、自信が持てない面もやはりあったんじゃないでしょうか。 仕事してるんだか、してないんだか、勘ぐられてしまったのも この辺の「ここぞという時に・・・」に起因するところのような気もします。 とても有能な人であることはよくわかりましたが、それでもやっぱり、赤土さんは発展途上の人なのです。 もっとも、アピールすればいいというわけでもありません。 この辺のさじ加減が「教育」の難しいところです。 なんでもかんでもやってもらえると思ったら、それは依存につながってしまい、かえって成長の妨げになる。 赤土さんの様子に疑問を感じたのは結局杞憂でも、その時はそう感じたからこそ、自分たちで何とかしなければと思い かつて遠征でお世話になった荒川さんとコンタクトを取って練習試合を組んでもらった。 さらに荒川さんがツテで、個人戦に出場する実力者を呼んでくれたことで、交友関係の幅がより広がった。 偶然出会った東横さん→長野県強豪との練習の機会になったことも含め、 これらもきっかけ自体は、以前遠征を組んでくれた赤土さんあってのことですが、 その縁を生かして派生した、赤土さんの手を離れてのメンバーの努力によるものです。
一朝一夕で上手くいくはずもない。「でも試すだけ試したい!」 荒川さんたちとの練習試合の成果がどれだけ意味をもってくるのか、今のところ明確とは言えませんし 相手の特徴を見極める戦術眼も、現時点ではやはり赤土さんにはかなわない。 それでも自分たちなりに考えて行動したことは、長い目で見て、きっと意味を持ってくることでしょう。 そもそも、赤土さんがアドバイスしてくれるとは言っても、結局打つのは自分自身 宥姉が弘世さんの狙いをかわせたのは、泉も思っているように宥姉自身の「トリッキーな打ち方」もあってのことですし 渋谷さんのハーベストタイムに関する対応は、憧の高い記憶力に裏打ちされたものだということは前に書きました。 生かす力が本人にあってこそ、アドバイスも意味があるというものです。 よく見知った相手であっても疑うことはたまにある。 雨降って地が固まるように、それもまた成長や団結に繋がればそれでいい。 発展途上の部員たちと、やっぱり発展途上らしい先生 それぞれ足りないところやつまずくところはあっても、勢いで立ち上がってくる。 いかにも新興の集団らしい、阿知賀女子麻雀部と言えるかもしれませんね。
前回、憧の記憶力の項でも取り上げたこの場面
そうかー龍門渕に遠征した時に、長野決勝の録画映像を見せてもらったのかー だからステルスモモの特徴も知ってたし、この時気づくこともできたのかー ・・・って よく映像見せる気になりましたね、透華さん。 そりゃあ、せっかく長野まで遠征してきたのだから 穏乃や憧たちが和に関わる試合映像を見たがる気持ちはよくわかります。 同じ大会に進む者として、研究になりますし、何より久しぶりに見る旧友の姿なのですから。 でも、見せる側の龍門渕からすると・・・決勝戦ってつまり「自分たちが負かされた試合」ですよ? 時間も限られていることですし、決勝戦をまるまる全て見る余裕があったとは思いません。 しかし、それでも、ここでの話から和が対局した副将戦、つまり透華さんの試合はしっかり見ていたことがうかがえます。
もっとも一ちゃんが振り返っているように 透華さんは非常に研究熱心な人で、プロの牌譜を細かく分析したり、ドイツの研究所と提携したり。 だから、不本意でも、自分が敗れてしまった試合もまた一つの研究素材として確かめ、振り返り 反省を次に生かすことは必ずやる人でしょう。 透華さん自身が映像を見ることについては、何もおかしなことはないというか、むしろ当然のことだと思います。 でもいくら頼まれたからといって、この時会ったばかりの阿知賀の子たちによく見せる気になりましたね・・・ これ、阿知賀の立場でたとえると、 玄ちゃんが全国二回戦や準決勝における自分の試合を人に見せてと言われるようなものですよ。 後学のためにも、赤土さんから見るように言われていることもあり、 自分自身で確認する分には、正直心苦しくても目をそらさないとは思いますが、 人に見せるのは、おそらく、いや絶対、「勘弁して・・・」という気持ちになること間違いないと思うのですが・・・ (でも結局断りきれなくて見せてしまうような気もしないでもない) もちろん透華さんはマイナスと言っても、せいぜい5000程度で誤差の範囲みたいなものですし、 玄ちゃんみたいに散々な有様だったわけでもないですが、 しかし昨年の実績、前評判があっただけに、対戦を望んでいた念願のライバルがそこにいただけに 相当に悔しい思いをした試合であったことは間違いないのです。 お人よしなのか、何なのかー ・・・いえ、お人よしという一言で片づけてしまっては申し訳ない。 透華さんがたぐいまれな包容力の持ち主であることは疑う余地もないことですね。
そして、加えて、私がその心意気を素晴らしいと感じたのはこの場面
これは無理。なかなかこうは言えない。 もちろんこの場に来る直前に、衣が自分たちのことを指して友達であり家族だと笑いかけ、 今まで以上に心を開いてくれるようになった、その喜びは大きいにしても・・・ 自分が気を配り、心を砕き、導いてきた衣がそのように「生まれ変わる」直接のきっかけをもたらしたのは、自分ではなかった。 たとえ元々望んでいたことであっても、いずれそうなってほしいと思っていたとしても、 どうしても寂しさや、あるいは空しさが頭をよぎってしまうものです。 まして、自分に自信がある人、プライドの高い人であればあるほど、かえってこの境地には達することはできないものです。 しかし、この時の透華さんは自ら咲や和に近づいていく衣を優しく見守り、 「(よかった)ですわ!」と手放しで衣の成長を喜んだ。さながらそれは子どもの巣立ちを見守る親のように。 まさに、器がとても大きい人だからこそ、なせることだと言えます。 そんな透華さんからすれば・・・自分が負けた試合を人に見せることなど案外何でもなかったのかもしれませんね。 いえ、プロの資料を見て、自分と考えが違えばとことん追求したことからも現れているように 他人の客観的な意見を聞ける機会として、むしろ望んでいた可能性さえ考えられます。 行動が極端だったり、和にライバル意識を持っていたり、目立つことに関してプライドをかけていたり 「あいつはいつも変な感じだろ・・・(by純君)」と、風変わりな要素をいろいろと持ち合わせている透華さん。 しかし、そんなことは問題にもならないと思えるほど、人情味あふれる考え方と対応をしてくれる透華さん。 私なんぞが今さら言わなくても龍門渕に思い入れがある方はたくさんいらっしゃることでしょうけど、 でも、もっともっと評価してあげてほしいなと改めて思いました。
登場人物の過去について振り返る「回想シーン」 これは本編でも阿知賀編でもしばしば用いられ、キャラクターの掘り下げのために一役買っています。 回想シーンの中身はもちろん様々ですが その描かれ方について、「咲」においてはある程度のルールというか、パターンがあります。
念のため、この項を書くにあたって、本編と阿知賀編の単行本を見直してみましたが ほぼ全て、一貫してこの手法が守られていると言ってよいと思います。 ほぼ全て、と書きましたが、やはり例外はあります。
しかし、これらの例外にも、やはり「ルール」があることはわかるかと思います。 回想シーンで思い起こされている場面には、それぞれまこも和も、シロも豊音も、竜華も怜も居合わせていました。 スタートとゴールが違うのは、この双方に共有された回想であるということです。 ということで、回想シーンにおいて、その中身は回想直前と直後に描かれているキャラクターの記憶。 直前と直後でキャラクターが違う場合は、それぞれに共有された記憶。 ・・・以上のことをふまえて、阿知賀編3巻の新道寺の回想シーンを見てください。
確かにこの回想前半は白水部長が姫子と、今年のチームオーダーについてやりとりしている場面ですから 前半は白水部長、後半はすばら先輩の回想というふうに分けて考えることは可能です。 今までそういう例外はなかったかと思いますが、だからといってこれからもないということにはなりませんので、 新しい例外がここでまた一つ生まれたという話です。 しかし、もし、ここの回想も過去の回想シーンと同様、これまでのルールを踏襲したものであったとしたら?
もしそうだとして・・・なぜ、そんなまどろっこしいことをするのか? そうする理由も、そうしなければならない思いも、白水部長にはあったと思います。
この回想を見て改めて考えてみると、 「あいつはトバん」という能力(または特徴?)・・・だけでなく、 すばら先輩の精神力を、白水部長が非常に高く買っていたことを感じます。 何せ面と向かって言えない思いがあったとしても、これはこれで、悪く言えば「陰口」です。 真意を聞かされたすばら先輩が落ち込んだり、ふてくされたりする可能性は大いにありました。
そこまで信用しているなら、なおさらわかるようにはっきり言ってあげるべきだったのではないか? ・・・という向きもあるかもしれません。 しかし、信じているから言えることもあれば、信じているからこそ言えないこともあるのです。 人間必ずしもベストと言いきれる選択ができるわけではありません。 言うべきか言わざるべきか、言うならどのように言うのか・・・少なからぬ逡巡が部長の頭の中を巡っていたことでしょう。 繰り返しますが、基本的に強気で率直な部長をして、告げるに困る難題だったのです。 方法はいずれにしても、聞かされたすばら先輩は開き直り、自分の役割に向き合っていったのですから 白水部長の真意はしっかりと伝わりました。 それはすばら先輩に対する、白水部長の見込みはやはり正しかったと言う、何よりの証明です。 「まかされました!」「頼むぞ」と 直接に言葉をかわすことは少なかろうとも、相互に信頼し合って、準決勝のこの日を迎えたのではないかと私は考えます。
それに、江崎さんの結果には「おまえの失点やろ」とすっぱり言う白水部長が 点数だけならもっと派手な(本人曰く「2回戦もボッコボコ」だったとか)すばら先輩には言及せず、 また他のレギュラーもとやかく言っている様子がないところを見ると、 たとえ酷い結果になっても構わない。そういう空気を、時間をかけて部の中に作ってきたのだとも思います。 すばら先輩の強いメンタルは、もちろん本人の心の持ちようが第一であることは言わずもがなですが、 それを壊さないよう見守る新道寺麻雀部の、陰ながらの思いもあってこそ、支えられていたものだったのだと言えそうです。
何より、これらの土台となっている、白水部長・姫子、竜華・怜の絆の深さ。 さらには勝負に徹した新道寺の決意や、千里山の結束力はもう言うまでもないことです。 こういうのもアリかと開き直ってしまえば、あとはもう見届けるだけ。 準決勝大将戦、勝ち抜ければ決勝戦。 やるからには、もういけるところまで、心ゆくまで突き抜けてくれればそれでいいのでは、というところですね。
※先に断っておきますと、正直この項が一番自信がありません。(他は自信あるのかと言うとそれも違いますけど、これは特に) 準決勝副将戦。白糸台高校・亦野誠子さんの成績 −59400・・・ いや、派手に削られましたねぇ・・・ 試合描写がしっかり描かれた中での、これまでの最多失点は先鋒戦におけるすばら先輩の−51800だったのですが・・・ よもやこれを上回る成績が、しかも第一シードの白糸台メンバーの中で出るとは 正直、これはちょっと予想外・・・ しかし、仕方ない面もあろうかと思います。 第一シード白糸台なのに、というより白糸台だからこそ、徹底的にマークされる。 それは全国随一と名を知られた強豪校の宿命でもあります。それに
麻雀に関してさほど知識がない私では説明するのはかなり心もとないですが、 亦野さんの打ち筋に対して、この席位置は相当不利に働いたはず 「白糸台のフィッシャー」こと亦野さんの得意は、副露。つまりポンやチーを駆使して自分に必要な牌を他家の河から集め、 これが3回できれば、5巡以内に和了れるとのこと。 副露、特にポンをくりかえすことでもたらされる効果と言えば 欲しい牌を揃えることができることと、他家の順番を飛ばせること この効果をもっとも活用しようとしたのが、先鋒戦におけるすばら先輩です。 「宮永照の下家に座ってしまったものですから」と 自分の置かれた位置を自覚して、立ち回ったすばら先輩ですが 照の下家に座ったからこそ、鳴きまくる戦法は効果を発揮しました。 これが対面だったら、効果は半減 上家に座ろうものなら最悪です。自分が鳴けば鳴くほど、次に照の番が回ってくるわけですからどうにもなりません。 それならば、とすばら先輩にも他に戦法があったかもしれませんが、 少なくともこの手は全く意味をなさなくなってしまうところでした。 すばら先輩がおちいったかもしれないこの状況が、そのまま、この時の亦野さんに当てはまります。 自分の得意な戦法で鳴けば鳴くほど。その次に来るのは白水部長。飛ばせない。 これはちょっと辛い。ホント、上家か、せめて対面であったなら、こうはならなかったものを。 ・・・で、スピード勝負に余裕を失ったところで、船Qに狙われたり 準決勝に並々ならぬ意気込みで挑む灼に意表を突かれたり オリ方や切る牌の選択など、反省点は色々あるにしても、とにかく亦野さんにとって与えられた状況が悪すぎた。 それがこの副将戦だったと思います。 そして、こんなに削られたのは初めてだと、悔しさや戸惑いを感じずにはいられないまま、舞台は後半戦へ 改めての席決めの結果、亦野さんの下家は・・・白水部長 (またあなたか・・・っ!) 席が決まった時、亦野さんは心の中で嘆息しなかったでしょうか。 単純計算で言うと、亦野さんの下家に白水部長が来る確率は3分の1。2回連続なら9分の1 どちらも下家でない確率(9分の4)の方がずっと高いと言うのに、 亦野さんにとっては、つくづく運の無い9分の1でした。
さて、白糸台についてはもう一つ考えてみたいことがあります。 淡の闘い方について、赤土さんが穏乃に説明している時に出てきたこの台詞
必ずしも・・・必ずしもなので、絶対というわけではありません。 今年の白糸台5人がトップ5「ではない」ということが提示されたわけではありません。 副将戦で亦野さんが自分のことを指して白糸台のナンバー5と言い 準決勝で派手に削られるまでは、県代表エースをしのぐ強さを体現してこれたということなので 相当に強い選手ばかりであることは間違いありません、が・・・ それにしても、トップ5を選び出すとは限らない、というのは果たしていったいどういうことでしょう? 夏の全国大会と言う、高校生レベルでは間違いなく最高峰の大会であるというのに その代表を、校内順位に基づいたベストメンバーではなく、チーム単位で送り出してきたという白糸台 校内ランキング5位以内でなくても、メンバーに選ばれたといえば、すばら先輩もこれに当たります。 しかし、すばら先輩の場合、順位では劣っても「絶対に箱にならない」という資質を見込まれてのことです ところが白糸台の場合、すばら先輩のような例外ではなく、 普通に考えればトップ5をずらっと並べた方が強いであろうにそうしていない白糸台 これは一体どう考えればいいのか・・・ もちろんチーム同士で競わせることによって、部内のレベルを高める意図も当然あるとは思いますが・・・ 推測するにもまだまだ情報が少なすぎてどうにもなりませんが とりあえず、現時点で私に考えられるのはこれだけ。 インターハイにベストメンバーを送り込んでこないということは、つまり 選手個人の思いはともかく、組織として、 高校としての白糸台はインターハイを最優先事項に置いていない? こう考えられる観点は2つ。まず『白糸台の過去の実績』 白糸台は現在2連覇中。3連覇を果たせば前人未到の偉業であることは、以前から取り上げられていますが 同じように以前から触れられているのは、西東京の代表としても「3年連続」であること 連続出場という、数字から単純に読み取れる伝統に関して言えば 16年連続の臨海、11年連続の千里山、 あるいは40年のうち全国出場を逃したのは2回だけという晩成にも劣る感があります。 もちろん既に2連覇を果たしているという実績は それを補って余りあるものであることは疑う余地もないのですが (決勝が「県民未到」らしいので、晩成は過去に決勝進出を果たしたことはないようです) 優勝した前年、つまり宮永照が入学する前の年は優勝どころか、西東京予選さえ勝ち抜いていないことになります。 その年がたまたま運悪く勝ち抜けなかっただけということもありえますが 照が入学する以前は予選通過もままならない高校だったとも読み取れます 極端な、辛辣な言い方をすれば、全国ランキング1位とはいっても、白糸台とは結局宮永照のワンマンチームとも・・・? ・・・いや「それはない」と思います。 「2軍でさえ県代表レベル」と言われるほどの高校が 照入学以降から急成長してきた新鋭の団体だとはまず考えにくい。 照が強いことは言うまでもありませんが、この評価はワンマンとは真逆の、層の厚さがあって初めて成せることのはず。 そもそもそんな弱い高校であったのなら、なんで照はそんなところに入学したんだっていう話になってしまいますし。
3年前は白糸台は西東京代表になれなかった、それははっきりと示されている事実ですが にも関わらず、ほんの数年前と同じ轍を踏まないようベストの布陣で臨む、といったことを選択することもなく 部内の団体対抗戦の結果で選手を送り出しているという。 この方針からすると、白糸台にとって、インターハイの結果は「大事」だが「こだわらない」 ちょっと極論すぎると我ながら感じはするのですが、予選を勝ち抜けなかった「くらい」では揺るがないほど、 あの世界において、白糸台の地位は確立されている、という推測もあるいはできるのではないかと思うのです。 そして、もう一つの観点は『白糸台以外の他校の戦績』 去年の個人戦に注目すると、 決勝の残った四人の内訳は、一年生が一人、二年生が二人、三年生が一人 三年生はもう卒業してしまっているので、現時点では詳細はわかりませんが、 残る三人・・・一人は「インターハイチャンピオン」と称される照。 そして、三箇牧の荒川憩、臨海女子の辻垣内智葉(上の学年内訳を述懐していたのも辻垣内さん) 白糸台二連覇の立役者と言われる照は確実に団体戦にも名を連ね、栄冠を勝ち取っているわけですが しかし、決勝に進むほどの実力者でありながら、団体戦には出てもいない選手が 去年の個人戦では最低でも二人、場合によっては三人いたのです。
しかし、辻垣内さんの方がどうにもよくわかりません。 昨年個人戦3位。今年は臨海の先鋒として、団体戦主力を任されている彼女ですが これは今年からルールが変わり、『先鋒に外国人選手をオーダーできなくなったから』です。
留学生を取り入れることで、全国屈指の強豪として名をはせてきた臨海。 私が疑問に思うのは、昨年個人戦で3位の戦績を残すほどの実力をもった選手が なんでそんな実力があっても団体戦メンバーに加えてもらえなさそうな学校にあえて入学したのか、ということです。 部内の気持ちはともかく、周りの印象では、辻垣内さんが選ばれたのは、あくまで「ルールが変わったから」です。 去年までのルールならおそらく代表にはなれなかった。 実力で選ばれないならまだしも、学校の方針で弾かれる可能性の高い学校を どうして彼女は選んだのでしょうか? もちろん高校に入学するまでは辻垣内さんは実力でもレギュラーを勝ち取れるほどではなく、 臨海に入り、留学生たちと切磋琢磨することで全国有数の腕前になったという可能性もあり、 そうだとすれば、それもなかなか熱いです。 しかし、そこまで自分を高めてきたのだとしても くどいようですが、ルールが従来通りだったら、辻垣内さんは結局団体のレギュラーに選ばれないままでした。 去年がそうであったように、個人戦で奮起すればいいと開き直ることもできるでしょうが 強くなったところで認めてもらえそうにない学校で、どのようにして辻垣内さんはモチベーションを維持してきたのか・・・ ・・・このへんの辻垣内さんのいきさつについては、今本編でまさに本人が対局しているところであり、 小林立先生の回復→連載再開次第、そう遠からず語られることになるのではないかと思います。 しかし、辻垣内さんだけに限らず、臨海の方針である「留学生を集め、育て、オーダーを組む」ためには、 留学生に匹敵する腕前を持った留学生以外の選手も相当数必要なはずです。 留学生を抜くとあとはお話にならないくらい弱いチームでは、そもそも留学なんかしに来てくれないからです。 優秀なコーチ、スタッフ・・・環境でカバーするとしても、同年代で共に腕を磨き合うライバルの存在は、成長に不可欠なもの。 ですから、高校で腕を伸ばした選手もいれば、元からそれなりに腕に覚えがあって進学してきた選手もいるでしょう。 でも、校内で育ったにせよ、元々力量を持って入ってきたにせよ いずれの形にしても、留学生と渡り合うために集められたであろう日本人の高校生たちは、 留学生優先のシステムのために、やっぱり全国大会、特に団体戦には出られません。 他の学校に行けば全国大会も狙えるものを、わざわざ埋もれるような道を選ぶ 一体、なぜ? それに有力な答えがあるとしたら、インターハイは確かに魅力的だ でも、インターハイさえも上回るものがあり、それを手に入れるチャンスが臨海に行けばある・・・ということ 全国大会を棒に振るのに値するほど、長い目で見て自分にとってプラスになること その「それ」とは何か?臨海から連想されるもので、日本全国を上回るとしたら、 それはもう海外、世界ではないでしょうか。 臨海が留学生を集めている、ということは当然、世界につながる「パイプ」を持っています。 それもアメリカ・ヨーロッパ・アジアと多岐にわたります。 向こうからやってくる、ということは、一方通行というわけではないでしょう。 そのパイプを利用して、日本人高校生もまた、世界を見ることができる機会を必ず設けているはずです。
高校に入る時、自分の進路を考える時、 どんな高校生活を送るかも大事ですし、その高校で何を学び、将来は何を目指すのかを考えるのも大切です。 多くの高校生にとって、インターハイが大きな夢であることは間違いないと思います。 ただし、端的に言えば、インターハイは「高校時代のみに限られた夢」であり、 限られているからこそ輝くものでもありますが、 高校を卒業した後には、その先に広がる将来を、学生たちはいずれ見据えていかなければなりません。 将来自分はどうするのか、世界を目指すのか、プロになるのか、それとも・・・? そういった先への展望が開ける環境を与えてくれる学校、その一つが白糸台。 インターハイレギュラーも重要だけど、選ばれなかったとしても、進める道はそれだけではない。 複数の道が、可能性がこの学校に行けばある。 であればこそ、「留学生が優先される」臨海同様、 「必ずしもトップ5が選ばれるとは限らない」待遇に、学生たちも納得できるというものでないでしょうか。
しかし高校としての目標は世界であり、あるいはプロである。そのために選手を育成している。 インターハイは注目すべき大会ではあるが、あくまでも選手育成のための一環である 団体戦におけるチーム作りにコンセプトを設けているのも どのようなチームを作れば、様々なチームと対峙してわたりあっていけるのか? そういう研究的な試みに取り組んでいる学校、それが白糸台高校なのではないかと思いました。 ・・・とかなんとか書いてきましたが、実際のところどうなんでしょうね。 うーん、もっと情報が欲しいです。
今回の最後は前回に引き続き松実姉妹です。 前回のコラムでここまで書こうと思っていたのですが、そこまででかなりの文章量になってしまっていたので 分割してこっちに持ってきました。 (それでも今回もたいがいな長さになっていますが・・・というか、今回の方が長いのでは)
それにしても、改めて考えてみると・・・これ、一体どういう状況でこうなったのでしょうか? ごく普通の姉妹であれば、子どもの頃の思い出の一幕であり、 外に遊びに行ったか何かの時に絡まれてしまったということで説明がつくでしょう。 しかし、なんせ極端な寒がりで、夏でさえこたつにもぐっている宥姉です。 明確な目的もなしに、外に出て行ったとは考えにくいのです。
ここで注目すべきはこのエピソードの時期ではないかと思います。 「おねーちゃんに手を出さないように!」と これまでの物語において唯一の眉をつりあげた表情で、割って入ったこの時の玄は半袖です。(※周りの3人の男の子たちも) となれば、これは夏の日の思い出と考えるのが自然です。
夏の、田舎の、山・・・これで類推されるもの 挙げればキャンプとかいろいろ出てくるだろうとは思いますが、 そういうアウトドアな目的ではやはりないでしょう。 私が思うに、これは「お盆」のこと そして二人の目的は、お盆にすること・・・つまり「お母さんのお墓参り」だったのではないかと。
初ではないとしても、「お盆の墓参り」これは当たらずとも遠からずなのではないかと、私は思っています。 お盆とは亡くなった人の魂が戻ってくるという日。 たとえ姿は見えなくても、大好きなお母さんが帰ってくる。 言い伝えにすぎないとは言っても・・・お母さんに会いたい、お参りに、迎えに行きたい 幼い姉妹が子ども心にそう願うのはありえる、 そして、宥姉が外へ出かける、十分な理由になるからです。
そうして二人で手分けして探している時に、宥姉が男の子たちに見つかった。 宥姉が絡まれているのに気付いた玄はとっさに駆けだして、姉を守ろうと立ちはだかった・・・ あの割って入った場面は、玄にしては珍しくというか、現状では唯一、怒っていることが確認できるシーンです。 普段は温和で、脆いところもある玄が姉のことに関してだけは真剣になること それに加えて、母の墓前に向かうにあたって (おねーちゃんとがんばっていくからね!)と決意を新たにしていた、 そんな気持ちも込められていたのではないかと思います。
それにしても、松実姉妹のお母さんは、一体いつ頃亡くなったのか 喪服を着ている時の姿からして、二人が小学生、それも低または中学年の頃であることはまず間違いないのですが 具体的にいつ頃と考えられるのか、もう少し分析(珍説とも言う)してみたいと思います。 私がこれが「ヒント」?と思ったのは第2話 麻雀部復活に向けて5人目を探している際、その候補に挙がった灼について
幼稚園年長までは麻雀をやっていて松実館にも来ていたけど、翌年の小1の時にやめてしまったと、 簡単にまとめるとこういう流れなのですが、 しかし、それにしても妙な「空白」があることがわかるでしょうか? 何故なら灼が麻雀をやめてしまったのは赤土さんの引退がきっかけです。 赤土さんが引退したのは、インターハイで敗れた後。つまり小1は小1でも灼が小1の夏のこと。 したがって、(数か月のことなので、玄が「くらい」でまとめてしまった可能性もありますが) この時の二人の言葉をそのままその通りに受け取ると 「灼がまだ麻雀をやめていない、にもかかわらず松実館には行かなくなった」時期があるのです。 小1の春です。 この春〜夏というと、上述の「松実姉妹のお母さんが亡くなった」可能性のある時期です。 合わせて考えてみると、お母さんが亡くなったのは、まさに小1のこの時期であり、 そのために松実館で今までのように麻雀が打てなくなったのでは・・・? それに、赤土さんという松実館からすれば間接的な理由で灼が急に来なくなったのであれば いくらなんでも「灼ちゃんどうして最近来ないの?」と当時の玄が聞いていてもよさそうなものです。 (もっとも玄なだけに、いつか来てくれるかなと思って、ずっとそのまんまだったというのもありえなくはないですが) それよりは、松実館にとって直接的な理由、つまりお母さんの死去によって とても麻雀で遊べるゆとりはなくなり、松実館にも気軽には来れなくなったという可能性の方が高いのではないかと思います。
お母さんが亡くなった後、お通夜、お葬式・・・で終わりません。 お葬式が終わった後も初七日に始まり、四十九日、百箇日としばらくの間、法要が続きます。 最近では簡略化する傾向がありますし、身内だけで行うことも珍しくないですが 阿知賀(吉野)のような田舎だと、四十九日を済ませ、喪が明けるまでは 地域の人に手伝ってもらって執り行う習慣は今でも残っているかと思います。(全ての家がそうしているわけではないにしても) 鷺森家が松実家の法要に関わっていたのなら、当然灼も連れて行ったでしょう。 小1の子どもを家に残していく理由はありませんし、それまで灼自身もお世話になった家でもあるわけですし。 そして、赤土さんが高1でありながら阿知賀の部長を務め、チームを全国に導いたのはまさにこの時期です。
ところがほどなくして、赤土さんは準決勝で惨敗を喫し、そのショックで牌を持つことさえできなくなってしまいます。 松実館にも行けなくなり、灼にとって希望の星とも言えた赤土さんもまた失墜してしまった。 当時の灼にとって、麻雀との関わりを完全に断ってしまうに値するほどの「とどめ」になってしまったのではないかと思います。
可能性はさまざまです。 経営主はおばあちゃんで、両親もその下で関わっており、あくまでもただ描かれていないだけのこと。 あるいは今はいなくても、転勤などの理由で遠方に離れており、いずれまた戻ってくる機会はある。 しかし、最悪の場合はどちらか、あるいはどちらも・・・というところまでありえます。 いずれにしても、灼の家族としてメインで挙がってくるのが「両親」でなく「おばあちゃん」である以上 松実家だけでなく鷺森家もまた、決して平たんな状況ではなかったらしいと想像がつきます。 そんな様々な事情が、松実家と鷺森家それぞれに立て続けに起こり それゆえに松実姉妹と灼に隔たりが生まれ、やがてフェードアウトしてしまったのではないでしょうか。 ここまで仮説の上に仮説を重ねるようにして話をしてきましたが、 一応、まとめてみると、松実姉妹のお母さんが亡くなったのは「玄が小一の春頃」 そしてそれは阿知賀のレジェンド、赤土さんが「阿知賀を初めて全国へと導いた時期」でもあります。 そこへさらに、僭越ながらもう一個仮説を重ねさせていただきますと、 以前のコラムで赤土さんたちを当時指導した一人が松実母なのではないかと書きました。 玄曰く、松実館に通っていた頃の灼がよく打っていたのは「お父さんたち」らしいので 当時まだ健在なら、お母さんの方はどこで何をしていたのか。 松実館の別室か、あるいは学校か、新子家か、いずれかの場所で赤土さんや望さんたちの指導していたのかも?と思います。 教えを受けて腕を磨き、当時の晩成とも渡り合えるほどの力をつけた阿知賀女子麻雀部でしたが、 その活躍を見届けることなく、何らかの理由で松実のお母さんはこの世を去ってしまった・・・ 1話での穏乃の話から、当時3年生の部員もいたことは確実なのですが その先輩たちを差し置いて、1年生でありながら赤土さんが部長を務めたというのは、 実力や性格のみならず、「絶対にやってみせる!」と並々ならぬ決意を秘めていたゆえだったのかもしれません。
・・・多分に空想が含まれているのは承知の上です。 しかし、阿知賀のメンバーにとっても、部そのものにとっても、 大きな意味を持っていたであろうことは間違いない「10年前」 果たしてどんなことがあったのか・・・ 阿知賀編はもう終わりを迎えてしまいますが、いつかどこかで示してもらえる機会があればなぁと願っているところです。 それにしても、ここまで何度か松実姉妹については書いてきましたが 改めて思うのは、二人がどれだけお母さんが好きだったかということと、 そして、今のところ姿も名前も見えませんが、お父さんがえらい。
松実姉妹に限らず、阿知賀女子麻雀部の今のメンバーが育ち、そして全国大会を目指すにあたっては 家族を始めとする、いろいろな人との関わりがありました。
これらの結びつき、あるいは広がりのきっかけは、阿知賀が全国を目指したこと。 全国大会に出たいという思いがなければ、 家族はともかく、このような様々な人と関わりを持つことはありませんでした。
・・・思えば、この道のりの最初の一歩は もう久しく誰の目にも留まらない、夕暮れの校舎の片隅の、使われなくなった部室からでした。 和の活躍に心を動かされた穏乃が走り始めた、その日から。
いつかは今の阿知賀のみんなが子どもたちの、あるいは別の誰かのきっかけになる。 そうであってほしい。 そうなってくれたらいいな、と願いながら、今回の話を締めくくりたいと思います。 以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。 こんな長文に最後までお付き合いくださり、心より感謝いたします。 関連記事:咲 阿知賀編その1〜憧・穏乃・玄と「阿知賀こども麻雀クラブ」の子どもたち〜 :咲 阿知賀編その2〜漫画版とアニメ版 2人の玄ちゃん〜 :咲 阿知賀編その3〜怜は一体何を「改変完了」したのか?〜 :咲 阿知賀編その4〜仮説・ドラにまつわる玄ちゃんの記憶〜 :咲 阿知賀編その5〜「話の都合」と言われればそれまで?のことを真面目に考えてみる〜 :咲 阿知賀編その6〜場面と台詞から類推してみると・・・〜 :咲 阿知賀編寄り道〜一ヶ月遅れの探訪レポート〜 :咲 阿知賀編スタンプラリー〜歩いてきました吉野山〜 :咲 阿知賀編その8〜近いようで遠い、「あの人」への距離〜 :咲 阿知賀編キャラクター紹介〜『阿知賀こども麻雀クラブ!』〜 :咲 阿知賀編ヒストリー〜年表(阿知賀女子学院のあゆみ)〜 |