コラム:咲 阿知賀編その5〜「話の都合」と言われればそれまで?のことを真面目に考えてみる〜


※使用している画像について
今回は既に単行本化されている範囲では本編・阿知賀編共に単行本から撮ってきました。
2013年1月上旬の段階で未収録のもの、あるいは見開きのページなど私の環境では撮りにくいものについては
ヤングガンガンまたはガンガンの雑誌から引用しています。


久しぶりのコラム5回目
もう少しこまめにやればいいんですけどね。すぐ息切れするから私・・・

今回は阿知賀編の展開上でふと浮かんだ疑問について
本編・阿知賀編を読み直して自分なりに答えを出してみようと言う話です。

「今さらそんなこと?」というのもあれば「いやそりゃちがうだろ」というのもあると思います。
そこはそれ、私はこう思いました!ということでして
これが正解だなどとおこがましいことを言うつもりはもちろんありませんよー



先にお題を紹介しますと、今回はこの4つです。


 1.どうして穏乃は和の連絡先を知らなかったのか?

 2.阿知賀麻雀部が誰も個人戦に出場しなかった理由

 3.千里山女子監督:愛宕雅枝さんの役割

 4.準決勝先鋒戦で特に対策が立てられていないようだったのはなぜ?

 


例によって例のごとく、付き合ってくださるのであれば以下へどうぞ、お願いします。




1.どうして穏乃は和の連絡先を知らなかったのか?



「どうする・・・お祝いの電話しようか・・・
 いや・・・プライドか何かがそれを許さない!
 それに和の連絡先まったく聞けてない!」
(1巻p71)

第1話、穏乃が久しぶりに見た和はテレビで、インターミドル個人戦優勝を飾った瞬間でした。
かつて一緒に遊び、麻雀を打っていた知り合いの活躍に穏乃は目を奪われ、
忘れかけていた麻雀への熱意を取り戻し、麻雀部復活に向けて走り始めます。

それにしてもまだ和がいた頃に「なんかあったら連絡してほしいな」と言っていたにも関わらず
どうして穏乃は和の連絡先を知らなかったのでしょうか?
もちろん第一の理由はクラスが別々になったことをきっかけに疎遠になってしまったということなんですが
もう一つの理由として、おそらく「当時の和は携帯電話を持っていなかった」のだと思います。







携帯電話の所持について。


穏乃は小学6年生当時で既に携帯を持っており、
玄を呼び出していますから、当時中1の玄も持っています。
また、和のインターミドル優勝に驚いた後、
憧に久しぶりの電話をかけていますから、
憧も当時から持っていたでしょう。
しかし、和が携帯を使っている場面はありません。
穏乃たちと通話している場面がないのはもちろん、
長野へ転校した後、そこで知り合った優希からの誘いも、
窓の外から声をかけられるという
昔ながらのやり方でした。


和の携帯(スマートフォン)については、本編の方でつい最近出てきました。

Aブロック準決勝の朝
新道寺女子にいるすばら先輩を応援しようと思ったら
その相手に阿知賀女子が含まれていることに気づき、
咲、優希をともなって会場に赴きます。


しかし、何故か入り口で立ち止まってしまった咲と、後で連絡を取り合う

これが私の知る限り、和が携帯を使っている唯一の場面です。

一方の咲は携帯もPCも持っておらず
この時の携帯は部長の借りものです

もしかすると、和はつい最近携帯を持ったばかりなのではないでしょうか?

何故かと言うと、この日の朝は
時刻を確認するために携帯を使っているのですが・・・

(※なお、この時の携帯表示からAブロック準決勝が「8月11日」であることが判明します)
約2ヶ月前の長野県予選決勝で仮眠室に行った時には
ちょうど見やすい位置にあったとはいえ、
部屋の備え付けの時計を見ています。
目覚まし代わりにアラーム機能を使った様子もありません。
そもそもこの時の持ち物の中に携帯らしきものが確認できません。

もう一つ付け加えると、県予選前
まこの家が経営している雀荘で藤田プロにへこまされ
「合宿をしましょう」と部長に話をするために部室に戻ってきた場面。

既に午後8時20分。もうみんな帰っていてもおかしくない時刻です。
誰もいなければ提案も何もあったものじゃないのですが、
「雀荘から直帰しなかったの?」と部長が言っているあたり
バイトが終わった後、特に連絡もせずに戻ってきたようです。
(帰るとも、部室に戻るとも伝えていなかったということなので)

部長は二人が戻ってくることを読んでいたようですが
読まれていたことなど知る由もなく部室に帰ってきました


これらのことから、全国大会に進む=東京に遠征するにあたり、購入した公算が高いと思えます。


実際の統計(※内閣府:平成23年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」より)によると
小中高生の携帯電話所有率は、小学生が20%ちょっと、およそ4、5人に1人程度。中学で40〜50%。
高校生になると一気に95%以上にまで伸び、持っているのが普通の感覚になります。
しかし、小学生の段階では持っている方がずっと少ないのです。
このことから、和が高校まで携帯を持っていなかったとしても、別に不自然なことではありませんね。







では持っていない方が普通なのだとしたら
逆に、小中では所有率の低い携帯をなぜ穏乃・憧・玄は揃って持っていたのでしょうか?

高校生くらいになると友達同士で連絡を取り合うようになり、携帯は必需品になりますが(だから所有率が一気に跳ね上がる)
小学生の頃に携帯を持つとしたら、その目的は友達ではなく、親との連絡のためです。

最近では、安全確認などを理由に子どもに携帯を持たせる家庭も増えてきているようですが、
それに加えて、穏乃・憧・玄の3人に共通すること、それは家が自営業だということです。
穏乃は土産物屋、憧は神社、玄は旅館です。

当時の憧については今のところはっきりとはわかりませんが、
穏乃は家業を手伝っていたことを1話でほのめかしていましたし、

  クラブにしばらく来ていなかったことの理由にしていますが
  赤土さんが「まぁそうだよね」と納得しているあたり
  まんざら口からでまかせでもなさそうです。
玄は中1にして、旅館料理をある程度身につけていたらしく

「玄が作ってきたお弁当が独創的な上に美味しかったので
 松実館秘伝のレシピを今度こっそり教わろうと思う」

と赤土さんが自分のブログに記しています。
松実館秘伝の、と書いているあたり
家庭料理の範疇にとどまらず、実際に旅館で客に出している料理
つまり玄が当時から厨房の手伝いをしていたことがうかがえます。

松実家の場合、女将にあたるであろうお母さんが亡くなっていますから
娘の助けが必要だったのでしょう。


  時に、和がアドレスを知っていた赤土さんのブログ「ハルエニッキ」ですが、
  どうやら4年前で更新が止まっているようです。
  
  開いてすぐに昔の記事が出てきたのもそうですが、
  最近もつけていたのなら、それ以降の出来事
  たとえば福岡の実業団や現在の阿知賀女子学院麻雀部についても
  記されているはずであり、和や灼の目にも当然留まっていたはずです。
  しかし、二人とも麻雀クラブ解散以降の赤土さんの動向を
  直接見たり聞いたりするまで知りませんでした。

  おそらく麻雀クラブ解散→実業団入りのため福岡へ転居
  この時にブログを更新する余裕がなくなってしまったんでしょうね。

↓玄がドラのことを話していた、この時のことでしょう

このような家業の手伝いおよび家との連絡のため、3人は携帯を持った、というより親から渡されたのだと思います。

  特に穏乃の場合、「持たされた」ことがよくわかるのは
  後の番外編で、玄・和と子どもたちとで穏乃の家を訪れた時のこと。
  穏乃の母が山に遊びに行った穏乃を呼び出そうと思ったら、
  「やっぱり」携帯を忘れてると言っています。

  持ち始めて少なくとも2年くらいは経つであろうに、
  未だに携帯を常時持つ習慣が身についていないのがうかがえます。

さて、一方和の場合ですが
和の家庭は両親は検事と弁護士。多忙なようで、遅くまで帰ってこない、
数年に一度の転勤がある家庭です。


家を空けることも多いようですが。
和が清澄高校に入学した後の様子では
遅くなる時も和に連絡していないし、和の方も両親へ連絡していません。


多忙なのに、いえ多忙ゆえでしょうか。
ともかく連絡を取り合う習慣がないのであれば、
携帯を持つ必要性もなかったでしょうね。

麻雀部で合宿をすることになり
その打ち合わせもあって帰りが遅くなった和ですが

両親もまだ帰ってきていないことを
帰宅するまで知りませんでした



以上、彼女たちの生活環境、加えて小中学生の携帯所有率を考えると、
和だけが携帯を持っていなかったのだとしても、それほどおかしなことではないと思います。
せっかく持っているのだからと呼び出しに使うことはあっても、携帯を仲立ちにした関係ではなかったわけですね。
第一、おしゃべりやメールを楽しむ穏乃って想像できないですし。それを言うなら玄もだけど。


  ちなみに優希が携帯を持ってるかどうかについては
  中学以前はともかく、高校になってからだと、
  「咲日和」の清澄の巻で京太郎と連絡取ってる場面があります。
  ということで、清澄で現時点でも持ってないのは咲だけですかね。





2.阿知賀麻雀部が誰も個人戦に出場しなかった理由は?



顧問赤土先生のもと、麻雀部が正式に始動した4月、
5人は「個人戦はどうする?」と赤土先生に尋ねられます。
(1巻p140〜141)

唯一憧だけが軽く悩んでいる節がありますが、
玄はすぐに、宥姉に至っては勘弁してと言わんばかりに首を横に振ります。

玄「個人戦はみんなでって感じがしないし・・・」
穏乃「和は団体戦にもエントリーしてたっぽいからね・・・きっと出てくる!」

と答え、結局個人戦はなし、団体戦のみに絞るという道を選びます。
しかし、どうして阿知賀のみんなは個人戦を選ばなかったのでしょう?
和と会うことを目的にするなら、選択肢は多いほどよいはずです。
しかも和のインターミドルでの実績は「個人戦のチャンピオン」。
団体戦では高遠原中学は県予選1回戦で負けています。

そして読者的には、既に本編の長野県予選の結果を知っており、
清澄が勝ち上がってきたことを知っていますが、薄氷の勝利であり、
一歩間違えれば敗退する展開だったことも知っています。


もし清澄が負けていれば?阿知賀が奈良県を勝ち上がったところで、和とは全国大会で会えません。
もちろんその逆も然りで、清澄が勝っても、阿知賀が晩成に負けてしまえばそこでジ・エンドです。
可能性を高める上でも、たとえどちらかが団体で負けても個人なら、と
個人戦出場に賭ける目を残しておくべきだったのでは?と考えてもおかしくないところですよね。
和と面識のない宥姉や灼はともかく、どうして誰も個人戦を目指さなかったのでしょう?

すっぱり言ってしまえば、そこまで描写する余裕がないのと
後々に出てくる個人戦出場者との特訓の道を開くためなんですが、
(団体戦は団体戦、個人戦は個人戦。同じトーナメントの出場者同士で練習試合をすることができないルールがある)
話の都合で片づけないで、もうちょっと突き詰めて考えてみました。



ポイントはここ。阿知賀が晩成を破り、県代表を決めた頃
ほぼ同時期に行われていた長野県予選を清澄が勝ち上がったことを新聞やネットで穏乃たちは知ります。

高校生の地方大会の結果が奈良の新聞にも載っていると言うのは
それだけこの世界における麻雀への注目度の高さを物語っています。
まして、インターミドルのチャンピオンである和が含まれ、なおかつ昨年全国ベスト8の龍門渕を破っての初出場
きっと大きく取り上げられたことでしょう。

しかし、そこで清澄について、憧が一言

「聞いたことない学校だけどね・・・」(1巻p177)

聞いたことがない。

そう、阿知賀の子たちは、和が清澄に行ったことを知らなかったのです。


(となれば、もちろん和が穏乃・憧・玄のいずれとも重ならない副将であることも。
 もっとも、オーダーについては、部長が部員に発表したのも県予選当日になってのことなので、これはわかるはずもないです)








何故知らなかった?と言うより、知る由もなかったというのが正しいでしょうか。
和が清澄に行ったことを事前に知ることができるとしたら、その方法は

 A「和から聞く」
 B「マスコミ等の情報で知る」 この2つです。

言うまでもなく、和の連絡先を知らないのだから、Aは無理です。
したがってBしかないわけですが、するとマスコミは和の進学先に関する情報を流してくれていたでしょうか?

和に関係のあるマスコミと言えば、「ウィークリー麻雀TODAY」の西田さんでしょう。
ウィークリー麻雀TODAYは阿知賀編の方でも紹介されている
おそらくはこの作品世界の中で、特にメジャーな麻雀雑誌の一つです。


そこの記者である西田さんは本編1巻で既に登場しており、
もっとも和に注目しているマスコミ関係者と言って過言ではないでしょう。
最近でもAブロック準決勝の最中に会場を訪れた和に取材をしています。


しかし、その西田さんにしても本編1巻で和に取材をしている際に、
和に「お久しぶりです」と言われ、


「去年の原村さんの記事評判良くってね」
「全国中学生大会個人戦優勝」
「そのうえ(巨乳)美少女」

・・・この時のやりとりから、
取材したのは和が個人戦で優勝した頃以来であることがわかります。
去年の記事・・・すなわち今年に入ってからは書いていないのです。

となれば、今年高校に入学した和の高校のことなど、
やはり情報としては流されていないということです。


  傍証として、長野県予選1回戦・副将戦開始前
  和が出るとあって、客席に急に人が集まってくるわけですが
  そこでこのつぶやき。

  「清澄って聞いたことない名前だな」
  「なんで原村そんなトコ入ってんの」

  同じ長野で、和の試合に注目していた人でも
  和が清澄に行ったことは知らない、というのも珍しくなかったようです。

そもそも実際の、たとえば野球などでもそうですが
高校生はまだしも、中学生の進学先レベルでは、たとえチャンピオンであってもマスコミ的にはそう注目されないものでしょう。
西田さんでさえ書いていないのであれば、他の誰も手がけていないと言い切ってしまっても差し支えないと思います。



穏乃たちは和の進学先を知らなかった。では、それなら和はどんな学校に進んだと思うでしょうか?


「和は個人戦で優勝するくらい強くなった!」ならば

「その和ならきっと麻雀の強い学校に行っているはずだ!」


中学では和に競り負けたと言う泉が関西最強の千里山に進んでいます。
もちろん泉のこと自体は当時の穏乃たちは知るはずもないことですが、
強い選手は強い学校へ行く。
中学最強の和ならば相応の学校に進んでいるだろう、
というのが自然かつ一般的な考え方でしょう。

実際、和の元にはスカウトの誘いがいくつか来ていたようです。
メンバーが特殊な上、和をネット上のライバル「のどっち」かと
訝しんでいた龍門渕はないにしても、
順当に考えれば風越はもちろん、他の都道府県の名門校からもあったはずです。


泉は数多い部員の中から
1年にして千里山のレギュラーに選ばれたほど。
準決勝では残念な結果だったとはいえ
まだまだこれから伸びる素材、のはず
  ちなみに阿知賀編でただいま奮戦中の福岡:新道寺女子の
  白水哩・鶴田姫子コンビは佐賀の人です。

  そして、右の画像で二人のことを話しているのは
  現時点で「咲」史上もっとも残念な結果を叩きだしてしまった白糸台の亦野さん・・・
  いや、運も実力のうちとはいえ、あれはツイてなかったよ。
  亦野さんの運の悪さについては、いずれまた機会があれば。



どこへ進学したかはわからないけど、きっとそこでも麻雀をやってる
そして、必ずインターハイに出てくる!穏乃たちはそう思ったはずです。

とりわけ、穏乃は和がインターミドルで優勝する瞬間を目の当たりにしました。
かつて自分と一緒に遊んでいた子が
いつの間にか全国の頂点に立っていた、という衝撃は大きかったでしょう。

自分が麻雀から離れていた間に、和はこんなにもすごい存在になっていた!
私も和に追いつきたい!もう一度同じ舞台に立ちたい!
それが穏乃が再び麻雀を始める原動力だったのですから
「和は今までずっと麻雀を打ち続ける道を選んできた。
 きっとこれからもそうするに違いない!」そう考えたのではないでしょうか。

テレビに映ったまさかの和の姿に呆然とする穏乃

・・・少なくとも


全国大会の個人戦を制したチャンピオンが
まさか代表どころか団体戦に出るには麻雀部員数自体が足りない学校に

学食メニューのタコス目当てでそこを選んだ友達についていく
というのはまず予想だにしなかったでしょう。


いや無理、絶対できない。

  しかし、まさしくこれは「人は人、自分は自分」
  この選択は和には和なりの思いがあります。

  阿知賀こども麻雀クラブが解散して以降、和の麻雀の舞台はもっぱらネットでした。
  高遠原中学に入った時も、しばらくは麻雀が得意であることを優希には告げておらず、
  麻雀目的で入学したわけではありません。
  また団体戦では県予選1回戦で消えてしまうくらいの学校でもありました。
  和の中学での実績は部活動によって培ったものとは言えません。
  当時の和にとって、麻雀はネットでするもの。ネットさえあればどこでも麻雀はできる。
  だから、どこの学校に入ろうと特に関係はなかったのです。

  それよりも何よりも、和にとって心配だったのは違う学校に行くことで
  せっかく友達になった優希と疎遠になってしまうことだったのでしょう。
  既に阿知賀でそれを経験しているのですから。

  同じ学校に行っても、クラスが違えば
  和と穏乃がそうだったように、やはり離れてしまうおそれもありました。
  しかし、幸いなことに、当時の阿知賀女子学院との決定的な違いとして、清澄には麻雀部がありました。
  部員が揃っていようといなかろうと、麻雀部があるなら自分も行くし、優希も行く。
  集まる場所さえあれば、離れることはない。そう思ったのだろうと推察します。



  幽霊部員ばかりの廃部寸前だったそうですが
  一度ゼロになってしまうと、そこから復活させるのは難しいもの。
  限りなくゼロでもゼロにはしなかった。ギリギリでも環境を保たせた部長の功績は大きいですね。




この辺の和の進路に関する穏乃たちの推測が阿知賀が個人戦にエントリーしなかった理由、その一つだと思います。
実際の和の選択とはズレがあったので、薄氷の可能性ということになってしまいましたが、
推測通りに、中学王者が行くだけの強豪校に進んでいたのであれば、もっと違う展望になっていたでしょう。

それにしても、もし清澄でなければどこへ行っていたのでしょうか?
県内なら上にも書きましたが順当なのは風越なんですけど、
昨年度の実績から考えれば龍門渕の目もないわけではありません。
県外も視野に入れると、ひょっとしたら白糸台っていう可能性もありえたかもしれませんね。

現チャンピオン校ですし、東京に出ると言うなら父親が難色を示すこともなさそうです。
また、それが白糸台やあるいは臨海だったかどうかはともかく、
高校に進むにあたり、東京の進学校に行く選択肢は元々原村家にはあったようですし


もっとも「正直下手だと思った」と龍門渕の一ちゃんにダメだしされていたように、
中学時代の和は一定以上に強いけど「ミスの多いデジタル打ち」でした。
なまじ強いところへ行っても、果たしてレギュラーを射止めていたとは限らない。難しいところです。

でも、いずれにせよ、どこに行ったにしても「和はきっと出てくる」と
特に穏乃は強く信じ込んでいそうですね。






さて、理由はもう一つあります。シンプルかつ重大な理由で
エントリーしたところで阿知賀5人に個人戦を勝ち抜けるだけの力量があるか?ということです。

このへん、清澄(竹井部長)と阿知賀(赤土さん)のプランを見ると、その育成方針に違いが見えてきます。


まず清澄。端的に言うと「弱点を克服する」が基本方針と言えます。
合宿に入る前にミーティングで部長が指摘したのは
それぞれの問題点でした。


和については、ネットでは強い。しかしリアルでは状況に流されミスが多い
そのため状況がどうであろうと自分のスタンスを貫けるように指導する。
ツモ切り動作の訓練や、何よりエトペン所持はこれがきっかけでしたね。



パソコンを持っていない咲にネット麻雀を経験させたり
まこに初心者も含めた特殊な卓を見せたり、
本人も言っている通り、「全国に向けて懸念を減らす」がコンセプトです。






一方、阿知賀の赤土さん。
特訓、遠征を重ねて選手を鍛えるというのはもちろんなんですが
印象としては弱点克服よりも、
「長所を伸ばす」方に重点を置いているように思います。

象徴的なのは遠征で北大阪二位の三箇牧と練習試合をした時、
団体としては勝ちましたが、
昨年個人戦二位の荒川さんには誰も勝てませんでした。
その結果を振り返って、「そりゃそーね」とさっぱりしています。
咲や和をへこますために藤田プロに協力してもらった部長とは
対照的な反応と言えます。


「うちも総合で勝てばいい」(1巻p191)
個々の弱点よりも全体でのカバー。
赤土さんとしては、荒川さん本人に個人では勝てなかったことより
荒川さんも含めた三箇牧に団体で勝ったことに
より手ごたえを感じたのではないでしょうか。




なぜ育成方針に違いがあるのかというと、もちろんそれぞれの志向・判断の違いからなのですが、
「弱点の克服」「長所を伸ばす」
一概には言い切れませんが、特訓として上級者向けなのは前者で、後者はどちらかと言えば初心者向けです。

清澄の場合、和はインターミドルで優勝しており、実績は十分。咲はその和を上回るほどの潜在能力を示しました。
底上げを図るまでもなく、相当に強いのです。であればより強くするためにはスキを少なくすることが課題になってきます。
また、和の存在は、全国に進めるだけのレベルを図る、一種の「ものさし」としての意味も持っていたことでしょう。

阿知賀の場合、この実績が決定的に足りません。
穏乃・玄・宥・灼は公式戦経験自体がなく、
憧は阿太中で麻雀部に入っていたものの、目立った成績ではなかったようです。
(アニメでは確か県大会ベスト16が最高とかそんな話だったような)
であれば、短期間で強くするためには、
自信につなげるためにも、まずは自分の得意筋を伸ばすことです。

上の方にも挙げたコマの一部
(参加したいけど、今のあたしの腕じゃなー)
とでも言いたげな様子の高校入学当時の憧

点を取られるが自分でも取る、逆にあまり打点は上がらないけど守り切って後につなげる。
団体戦ならこれでいいのですが、自力で戦う個人戦ではそうはいきません。
個人戦に必要なのは自分で稼ぎ、かつ失点も抑える、オールマイティ的な実力です。
もちろん長所を伸ばし、弱点も克服する。その両立が可能であればそれに越したことはありません。
が、「角を矯めて牛を殺す」なんていうことわざもありますが
弱点を補強しようとして、かえって中途半端な仕上がりなってしまうおそれがあることも否めません。

くどいようですが、阿知賀の部員には実績がありません。
唯一かつ最大の武器は、かつて晩成を下した阿知賀のレジェンド・赤土晴絵がいることです。


そして今年の部活動をすすめるにあたって、
当然参考にしたであろう、赤土さんが作った10年前の実績
すなわち阿知賀が全国初出場を決めた当時のことですが、
その頃にしても確かなのは団体戦のみで、個人戦に進んだ形跡がありません。

そもそも10年前に個人戦があったかどうか自体が不明ですが
現在の大会運営にもとづくならば、団体戦の後に個人戦の順です。

しかし赤土さんの当時について、団体準決勝で大量失点して負け、
しばらく牌に触れることもできなかったということですから
確実に個人戦には出ていません。

棄権したか、当時は個人戦がなかったのか、
出場していなかったか、はたまたできなかったのかのいずれかですが
この当時の牌譜に見込まれて熊倉さんからスカウトを受けたことを踏まえると
棄権や、個人戦では県予選敗退だったというのはちょっと考えにくいです。
したがって、その当時の阿知賀も団体のみの出場で
全国行きを決めたのではないでしょうか。
なんせ当時は本当に完全に実績ゼロの時のことでしたし。


準決勝で敗れ、傷心で望姉ちゃんと共に
阿知賀に帰ってきた赤土さん
(この後、小1の灼に会います)

  また、これは別の学校の事情になりますけど、
  阿知賀と2回戦で対戦した兵庫県の劔谷高校ですが
  2日後の準決勝の日には、もう地元に戻っています。
  出てきたのは先鋒の椿野さんと、副将戦で倍満をとった森垣さんですが
  既に帰っているあたり、この2人自身はもちろん、
  劔谷からも個人戦出場者は出ていないようです。

  激戦区という触れ込みの兵庫県を勝ち抜き、
  あわよくば準決勝進出も、という可能性もあった劔谷の麻雀部ですが、
  阿知賀同様団体戦のみに絞ったか、あるいは代表に選ばれなかったか。
  いずれにしても団体と個人を両立させるのは思いのほか難しいのだという
  一つの傍証にはなるかと思います。


  ※2年ほど経ってからの追記
   小林立先生のHPによると(2015年1月13日付け)
   劔谷からも個人戦に出る選手はいて、
   東京のホテルに泊まらず自宅に戻っているのだそうです。
   ということで(消さずに残しておきますが)上記のことはあてはまりません。
   個人戦のためにわざわざもう1回上京するの?と思いましたが
   団体戦から個人戦まで数日の間が空き、
   滞在したままでは宿泊費が相当のものになるため
   (阿知賀や千里山の様子を見ているとなおさらそう思います)
   一度戻ってまた来る方がよほど経済的ですね。理にかなってます。



劔谷高校の地元は兵庫県芦屋市
芦屋は高級住宅地として関西では有名です。


実際のところ、個人戦に挑んでいたらどうなっていたか?
もちろんそれはやってみなければわからないことですし、
特に県予選で稼ぎ頭だった玄や、予選から全国準決勝に至るまで全てプラスという安定ぶりを示している宥姉なら
県大会レベルは何とかなった可能性は高いと思います。

しかし、それはまさにフタを開けてみた後になってからわかる結果論で
準備段階にあたって、団体戦・個人戦も成績を残そうと考えるのはかなり困難です。
第一、肝心なこととして、個人戦代表は各県3人
どうがんばっても、全員が勝ち抜くのは不可能です。

「みんなで力を合わせて全国大会へ」
を目標に結成した阿知賀女子学院麻雀部

前述の和が「団体で勝ち抜ける学校へ行った」と
おそらく思っていたであろうこともふまえると、優先すべきはやはり団体戦。
二兎追うものは一兎も得ず、のような結果におちいるリスクよりは
個人戦は捨て、団体戦における戦い方に絞って
訓練した方がよいはずだというのは
実績、状況、またモチベーションの上でも
妥当な選択だったと言えるのではないかと思いますよ。



ところで、そんなこんなで結局阿知賀は出場しなかった奈良の個人戦。
その1位は誰かというと、晩成の小走先輩でした。
団体では玄のドラゴンロードにしてやられましたが、
それでも自身では+15000くらいの結果を残した小走さん
晩成の中核はやはりダテではなかったのだ。
                 準決勝副将戦で灼の奮闘を見てガッツポーズの小走先輩
                 もう東京入りしているのかどうかはわかりませんが
                 どうやら他のレギュラー陣も一緒にいるようですね。





3.千里山女子監督:愛宕雅枝さんの役割



そもそも部活動なんだからどこにも顧問がいないとおかしいだろ!というそれ以前のつっこみはとりあえずさて置いて
全国を目指す各校の麻雀部。部のいくつかでは、部員を指導する立場の大人の存在が確認できます。


本編ではまず風越コーチの久保貴子さん
元は福岡にあった実業団の監督で現在は宮守顧問の熊倉トシさん
姫松監督の善野さんと、その善野さんが入院加療中のため代行をしている赤阪郁乃さん
そして阿知賀編に登場した阿知賀顧問の赤土晴絵さん、千里山監督の愛宕雅枝さん。

この6人が挙げられます。

               上段左から順に久保コーチ・熊倉さん・善野監督・赤阪代行・赤土さん・愛宕監督⇒
               (※あと新道寺も「先生」の存在は明言されていますが、
                     今のところ容姿名前共に確認できないので割愛します)


                 ・・・で、この記事書いた直後に臨海の監督さんが出てきましたよー
 

この中で最近出てきたばかりの善野さんはともかくとして、
もう一つどういう役回りなのかが見えてきていない気がするのが
関西最強千里山を率いる愛宕監督ではないでしょうか。

いや、何もやっていないみたいな言い方をするのは語弊があると思います。
全国大会2回戦への準備として、レギュラーが研究するための1回戦映像と牌譜を用意したのは監督ですし
(全国大会と県大会では環境がまったく違うであろうとはいえ、
 コラム4で挙げたように、風越が清澄と鶴賀の牌譜をまとめるのに苦労していたことを踏まえると、
 この仕事の速さはさすがです)
バス4台、つまり部員・関係者合わせておよそ150人はいるであろう大所帯から
5人のレギュラーを選抜し、オーダーを組んだのも監督であるはずです。

しかし、研究素材は提供したものの、分析および作戦は船Qこと船久保さん任せで
その見立てに間違いがあっても、監督も気づかなかったのか任せきりだったのか、
修正を加えていません。

何より他の大人との決定的な違いとして、自校が試合中、控室に姿が見えません。

二回戦にて
宥姉のプロファイルを間違えていた船Q

現時点でははっきり明言されてはいませんが、その名前と顔立ちが示すように
南大阪の代表校・姫松の中心選手である愛宕姉妹の母もしくは親戚であるはずの雅枝さん
(愛宕姉妹と船Qが従姉妹で、雅枝さんと船Qがおばと姪の関係であることは各々の台詞からわかります。
 ただ雅枝さんと愛宕姉妹が親戚ではあっても親子だとは今のところ断言されていないかなと
 限りなく100%に近い確率で親子だとは思いますが)

本編登場の、しかも強豪キャラクターと血縁者と言う、一種の「ネームバリュー」があるにも関わらず
雅枝さんの指導者としての働きぶりはそれほど前面には出てきていません。これはどういうことか?
これまた単に描かれていないだけと片づけてしまえばそれまでですが、ちょっと考えてみたいと思います。







では、ここで指導者の仕事にどんなものがあるか、他校の指導者の様子から振り返ってみましょう。



第一に、まずあがるのはやはり「部員の強化」でしょう

方法として、指導者が自分で打つことで部員を鍛える。
これは赤土さんや熊倉さんがそれぞれ阿知賀・宮守でやっています。

特に熊倉さんは会うまで麻雀をしたこともなかったエイスリンを
予選和了率全国1位にするくらいだから相当なものです。
(つまり点数はともかく、和了だけならあの照よりも多かったということです。
 見せ場ありませんでしたけど・・・)

宮守部室で部員をトバしまくる熊倉さん。強い。

次に、自分の人脈等を使って部員を鍛えてくれるだけの実力を持った人を呼んで練習する。
風越の久保さんはスパルタ的な指導と共に、OGと部員の練習試合の場を設けていたようですし、
新道寺や姫松は監督もプロとの対局を組んでいます。
特に赤阪代行の場合、全国2回戦終了直後にプロを20人も呼んで特訓したようです。


                                        この時呼ばれた一人が戒能プロ⇒
                                        新鋭のトッププロで、永水中堅・滝見さんの従姉妹

呼ぶのではなく、自ら行くというケースだと、
赤土さんは全国の予選2位校と連絡を取って、毎週のように遠征に連れて行きましたし、
久保さんも藤田プロと提携して、長野決勝に進んだ4校を集めて合宿をしたりしました。



第二に、「試合に向けて対戦相手の研究と対策の指南」


白糸台対策として、全国大会に出発する前から
赤土さんがいろいろ調べていたのは最近出てきましたが、
全国大会の抽選後もその翌朝には
1回戦で戦う岡山・富山・福島の県予選映像を用意できていたので
こういう資料を集めるのは得意みたいですね。

他の学校だと代表的なのはやはり熊倉さんでしょうか。
主に塞さんに対して、永水のハッちゃん、
それから昨年個人6位沖縄の銘刈さん封じを伝授していたようです。



第三に、「部員のスカウト」

「2」の和の進路のところでも書きましたが、
インターミドル優勝を果たした和の元にはスカウトの話が来ていました。



スカウトが成功した例としてはこれまた熊倉さんが姉帯さんを見出したことですね。
チームは解散してしまいましたが、阿知賀で埋もれていた赤土さんを
実業団に誘ったのも熊倉さんです。



これらのことをもちろん愛宕監督がやっていなかったとは言いません(むしろやってないとは思えない)
ただ「自身で」やっていた描写が確認できないのと、少なくとも第二については誰が見ても明らかに船Q主導です。
第三については、中学から実績があったらしい泉やセーラは千里山への推薦を受けたものと思いますが、
招くにしても、名門であるならばこれは主にスカウト担当の仕事でしょう(もちろん意見は聞かれたはずですが)
部員が少ない(宮守)とかオフシーズンがある(実業団リーグ)→動きやすい状況・時期がある
という条件があるからとはいえ、監督自ら赴いて誘いをかけている熊倉さんの方が珍しいと思います。

ならば愛宕監督の仕事は何か?それは以降に挙げる3つのことではないでしょうか。







第四、「指導者的存在の部員を育てる」


第一に関係する「外部の人を招いて特訓する」はともかく、「自分で打つ」ということについて
阿知賀や宮守はできて、千里山でできない理由は何か?
単刀直入に言って、部員数の問題です。
阿知賀・宮守ともに5人しかいません。部員=レギュラーですから、つきっきりで面倒を見ることが成長への最善策です。
しかし千里山は100人を超えるであろう大所帯です。全員を見られるわけがありません。
風越・新道寺・姫松も千里山ほどではないにしても、強豪校としてそれぞれかなりの大人数を抱えているでしょう。(風越は80人)
OGやプロを呼ぶのは、より実践的であること、呼べるだけの人脈があること、のみならず
そういう機会を持たないと指導者自らのコーチングでは限界があるということもあるかと思います。

監督では全員を見きれない。ならばどうするか?
2軍・3軍とレベルに応じたグループを作ることや、指導できる人を増やすこと。
コーチ陣を拡充できるならそれも良策ですが、部員が教わるだけでなく、互いに学びあう環境にすることも大切です。
特にレギュラー陣においては、野球で言えば「グラウンド上の第二の監督」とも呼ばれるキャッチャー
サッカーなら「司令塔」にあたる部員を育成し、その部員に対戦校の研究と対策を指揮させる。
千里山の場合、今さら言うまでもなく、船Qのことです。
船Qの場合、どうしてもついて回ってしまう血縁関係、「監督の姪だから選ばれた」などという声を黙らせるためにも、
レギュラーに必要な存在として鍛えたのだと思います。

また、これは千里山だけでなく、南の姫松でもやっています。
これまた言うまでもなく、末原さんです。

赤阪さんが代行であることと、末原さんが慕う様子からして、
正規の監督である善野さんの指南によるものでしょう。

分析が必ずしも完全とは言えないとしても、
船Qや末原さんが対策を任されているというのは
彼女たちの仕事ぶりが、レギュラーたちからも
全国を戦うに足る信頼を得ている証拠です。

そこまで二人を育てたのは監督の功績に他なりません。

2回戦では失点続きでしんどい目を見たものの
最後で一歩踏みとどまり愛宕主将に労をねぎらわれる末原さん

今はレギュラーでも、いずれ学生たちは卒業していきます。
OGとして、プロとして、自分自身の麻雀人生はもちろん、後輩を指導する時にもその経験はきっと生きてくるでしょう。
長い目で見て、それは学校にとってもプラスになります。
伝統を持つ強豪校だからこそ、その年だけに限らない長期的な見通しを持ち、
このような「監督候補生」を育てておくことは大いに意義があることなのだと思います。



続いて第五、「マスコミ対応」


これは本編の方で示唆されたのでは、と私は思っています。

「1」の携帯電話の項でも触れたように、
和がテレビで玄の姿を見たことで阿知賀の存在に気づき、
咲・優希をともなって試合会場に駆けつけます。

しかし試合会場はすでに人がいっぱいで十分に見られそうもないと思ったところで
ウィークリー麻雀TODAYの記者・西田さんに出会います。
ここで西田さんがこんなことを言いました。

「先鋒戦の最後に倒れた子がいてね。
 追いかけて話を聞くように言われたんだけど、不謹慎気味な仕事より
 原村さんの方がいいわ」

久々に登場の西田さん
上の方に挙げた初期のコマと見比べて
「誰だアンタ!?」とは
思っても言ってはいけない


倒れた子というのはもちろん怜のことです。
取材しろと言われたが不謹慎なのでという西田さんのもっともな良識と
一方で、受けた指示を自分の判断で放棄してしまう仕事人としての不徹底さ・・・はとりあえず置いといて

西田さんはやめてしまっても、ここに来ているマスコミは西田さんだけではありません。
全国中継やパブリックビューでも放送されているほどの注目度です。

しかも全国ランキング二位のチームのエースが試合後に倒れるという、
不謹慎でもマスコミ的には興味をひくネタです。

他のどの記者も行かなかったとはまず考えられません。

マスコミ関連はいろいろありますが
千里山関係だとこれ(2巻p153)
セーラが出てきただけで記者いっぱい


しかし描写されている限りでは病室は静かなものでした。
部長である竜華は試合に赴く寸前まで怜の傍に付き添い、
怜も喧騒に邪魔されることなく、ごく自然に目を覚ましています。

本人や部長でないなら、
押しかけてきたであろう記者の応対を誰がしたのか?
監督を置いて他には考えられません。 

試合の真っ最中に控室はおろか会場からも離れたのはただ監督者責任として、ではなかったのでしょう。
こういう外部の声から選手を守るために、自ら動かなければいけなかったのだと思います。

ちなみに、準決勝副将戦の途中から病室は泉に任せ
試合開始後、初めて控室に姿を見せました。

今まで来なかったのにあえて来たのは、マスコミ対応が一段落したこと
怜の容態がとりあえず安定していることをレギュラーたちに示すため、
だったのかな、という気がします。 



そして、最後に第六、これを外すわけにはいきません。「最終責任者としての監督」です。


これについて、具体的な例は「ときシフト」です

病院通いの怜をサポートするため、
スケジュールを組み、レギュラーたちで支えるというものでした。
千里山五人の結束力を感じるエピソードだと思います。


この絆があったからこそ、
怜は準決勝先鋒戦において照の予想さえも超える力を発揮した・・・
私に異論はありませんし、多くの読者・視聴者の方にも
同意してもらえることだと思います。


ところがこれ、たとえば泉が示唆したような「後援会の人」など
作品世界の千里山の関係者に受け入れてもらえるかと言うと、現段階では必ずしもそうとは言い切れないのです。


何故か?この「ときシフト」の話を持ち出した時、
監督や怜自身が指摘し、船Qも認めたように

「やるにしても他の人、たとえば補欠に頼んだ方が効率的かつ一般的」なのです。

「うちらがやりたいことなんで」と団結した、その心意気は素晴らしいことなんですが
事情を知らない人から見れば、レギュラーにも関わらず自分の特訓に専念せず
五人だけで効率の悪いことをやっているとも受け取られかねません。


千里山は去年のインターハイでは四位、現在の全国ランキングでは二位。
優勝、最低でも決勝進出を求められているチームです。
これで、今の準決勝で敗退するようなことがあったら大変なことです。
何せ、非効率なことをやった挙句に、去年よりも成績を落としたということになってしまうのですから・・・


強豪校には強豪校としてのプライドやスタンス、「しがらみ」があります。
このへん、スラムダンクの豊玉高校を思い出していただくとわかりやすいかもしれません(あれも大阪代表でしたね、そう言えば)
勝利を求められているチームは、勝利を最優先で考えなくてはいけません。
また、チームにとってプラスになることだとしても、今までのスタンスはそうそう変えられません。
変えて結果よくなれば称賛されますが、良くならなければ、むしろ落とそうものなら、あっという間に批判の対象になります。
今までのやり方で実績を積み上げたチームであればあるほど、その手法を変えるのは難しいのです。


そこで重要になってくるのが監督しての愛宕さんの存在です。
レギュラーたちが自分でやりたいと言いだしたことでも、認めた以上、最終的な責任は愛宕監督にあります。
高校生に結果如何を問うのは酷ですから、称賛はともかく、批判は真っ先に自分が受ける覚悟がなくてはなりません。

もちろん千里山が準決勝を勝ち抜き、
決勝でも前年を上回る成績を残せば万事オッケーですし、
その目は十分あると思います。
しかし、「ときシフト」を組んだ段階ではそんな先のことはまだ読めません。

リスクのあることには違いなく、にもかかわらず
あえて認めたのはやはり監督の判断があってのことです。

弱いチーム、新しいチームにも、それぞれそれ相応の苦労がありますが、
強いチームには強いチームなりのストレスやプレッシャーが存在します。
それを受け止めて飲み込むくらいの胆力がなければ、
とても監督は務まらないのだと思いますよ。 

上にも貼ったけどもう1回
控室に来た時の効果音が「どおんっ」な愛宕監督







・・・まとめると、現時点では愛宕監督は前面に出てくるようなタイプの監督ではありません。
しかし、部員にできることは部員にやらせる、自主性を重んじている監督であるとも言えると思います。

監督業の一つの理想として、
「試合で何にもしないのが一番いい」というのがあるらしいです。
試合前に選手の育成や環境づくりや、戦うために必要なことは全てやっておいて
いざ試合に臨むにあたっては、選手たちに自分で考えさせてことにあたる。
一歩間違えると放任になってしまいますし、その節がないとは言い切れません。

しかしこれまでの活動を通して生まれたもの
たとえば、わかりにくい灼の打ち筋をある程度とはいえ見通した船Qの分析能力や
「ときシフト」のために自分たちで医者の許可を取り付け、
スケジュールやレシピ等を組んだ計画力と行動力は称賛に値すると言えるでしょう。

それらが功を奏し、成績にも結びつくかどうかは今のところ未知数ですが、
そういう新参校にはできない、強豪校ならではの「成熟したチーム作り」
これを、愛宕監督は目指しているんじゃないかなと私は思いました。


まーこんな推測にとどまらず、ここは一つ、監督が「いかにも」な仕事ぶりを見せてくれれば、
それが一番すっきりするんですけどね。

そういうことで、どうかよろしく、雅枝さん。







4.準決勝先鋒戦で特に作戦が立てられていなかった理由



準決勝先鋒戦が終わったあと、次鋒では宥姉、中堅では憧が卓に向かいます。
それぞれ白糸台対策として、宥姉は「弘世菫の狙いのクセ」、
憧は「渋谷尭深のハーベストタイムの傾向」を、事前に赤土さんから教わっていました。
また、副将の灼にはピン牌狙いの打ち筋がある程度見抜かれていることを想定した上で
清澄の竹井部長のような悪待ちで意表を突く方法を学ばせていたようです。

憧については、その卓の流れもあって、封じ切ることはできませんでしたが、
それでも前半戦は発動させなかったようですし、
宥姉・灼はそれぞれ2回戦以上の力を発揮しました。
とりわけ宥姉は玄の失点をほとんど取り戻す大活躍だったと思います。


そして2013年1月現在で対局中の大将・穏乃にも何らかの方策が・・・?


しかし、それだけいろいろ講じるアイデアを持っているのなら
どうして先鋒戦だけはろくに口出ししなかったのか?とは思わないでしょうか。
次鋒戦以降での対策が有効であればあるほど、先鋒戦での無策ぶりが際立ってきます。

おまけにこの先鋒戦でアニメが一旦終わってしまったこともあって、余計赤土さんが指導者として力量不足に見え、
後付けみたいに急に仕事を始めたように受け取られてしまっているのでは、とも感じます。


赤土さんは今年顧問になったばかりであり、始めから優れた指導力を求めるのはそもそも酷です。
顧問を引き受けた理由も、10年前のインハイ以来抱えている、トラウマのようなものを克服するためでしたから、
麻雀に携わる者として、赤土さんもまだまだ発展途上の人です。
ですから対策しきれていなかったとしても、やむをえないところもあるでしょう。

しかし、玄に対して特に作戦を授けなかった理由、これは明確にあると思います。







まず根本的なこととして、ドラを抱えて手が縛られ気味の玄に、器用な作戦はできません。
そして、全国2回戦の戦前まではそれでもよかったのです。
奈良県予選では常勝・晩成高校を凌ぎ、全国1回戦でも失点を軽く取り返す勢いで圧倒しました。

ドラを大事にすることで勝ち上がってきた玄に
あえて今の打ち筋とは異なる選択肢を持たせる必要はありませんでした。

2回戦で怜とぶつかるまでは。


全国大会2回戦。
1回戦同様に事前の研究はきちんとしており、
怜にリーチされたら鳴かないと一発ツモされることも
牌譜を見て知っていました。

知ってはいました。が、どうにもできませんでした。




この2回戦の惨敗で、ドラを持っているだけでは勝てないことを
思い知らされるわけですが・・・




その後、長野の強豪校や個人戦出場者と特訓して、少しは防御力も上がったんじゃないかと思いますが、
(以前のコラムでも書きましたが、カンドラで手詰まりになった−10200が痛いものの
 それを除くとあとは−1000と−1300だけ。
 前後半全て合わせてもロンによる振り込みは−12500とそれほど悪い結果でもありません。
 もっとも照はやたらとツモ和了りが多いので、狙うまでもなかったとも言えますが
 少なくとも3位とさえ約3万点離され、一人沈みだった2回戦よりはだいぶマシです)

ドラを抱え込むことが、良くも悪くも玄の根幹なので
ドラをどうするか、端的に言えば、「いざという時にはドラを切ることも考慮しろ」と言うのか
その辺が、事前に可能なアドバイスであろうと思います。

赤土さんは昔の牌譜をチェックすることで、
玄がドラを切ると、次に戻ってくるまでどれくらいかかるのか調べていました。
玄自身も知らない、ドラ復活のための必要な局数を把握していたのです。

そんな用意をしていたのであれば、
なおさら教えてあげてもよかったのではないか。
わかっていれば、もっと柔軟に打つこともできたかもしれないのに。
と、一見すると思わないでもないのですが・・・ 


しかし、そんなに甘くはありません。
コラム4でも触れましたが、数局打ったくらいで戻ってくるほど簡単な話ではないので
短期決戦のトーナメントで回復のために長時間を食われるのはかなりの痛手です。

第一、対局に臨む前の玄にドラを切ることが少しでも頭にあったのならば、


100%照魔鏡で見抜かれますよね?それ


確かに玄がドラを切ったことは照にとって予想外で、これで猛威を振るっていた手がいったん止まりました。
しかし、肝心なのは照の意表をついたのは「ドラを切った」ことそのものではありません。
「照が予想だにしていなかったことに直面したため」であり、その手段がドラ切りであったということなのです。

前半戦東一局に「鏡」を使って観察したところ
阿知賀の松実玄からはドラが出ないと判断した・・・なのにドラが出たから手が止まった。

「玄自身にも当初ドラを切る意志はなかった」
ドラ切りが意表をつくための、これは絶対の前提条件です。
もし、少しでも「いざという時には切ることも選択しろ」という考えが念頭にあったのならば
鏡で見抜かれてしまい、成立しないのです。

もちろんこれはドラに限ったことではありません。
照の特徴である、連続和了や弱点?かもしれない打点制限。それらへの分析や対策、全てに対してあてはまることです。


玄がドラを抱えることで、自分の点を上げる一方、
ドラを持てない他家は打点が下がると言う副次的な効果があることは
作中でも指摘されていますが
照の照魔鏡の脅威もまた、相手の本質を見抜くというだけにとどまりません。
見抜かれてしまう故に、作戦を立てたところで照に知られてしまうわけです。

実際のところ、鏡でどこまでわかるのか、それは照自身にしかわからないでしょう。
(チームメイトの菫のクセには気づいていなかったので、万能ではないようです。
 本人も知らないような無意識の範囲までは読み取れないのかも)

しかし見抜く力があるというのは、相手からすれば
これほど恐ろしいことはありません。
せっかく練った作戦があっさり看破されてしまう。
崩れた作戦ほど、混乱を招き、かえって自らの足を引っ張ってしまうものですから。

あれだけ強い相手だと言うのに、対策のしようがない。
これが鏡の本当の恐ろしさだと思うのです。
 

新道寺のリザベーションについて
鏡で見たことを説明する照
二人分の能力について、
リンクしていること自体は有名だったそうですが
加えて仕草も含めて細かに見抜く高性能ぶり
無意識のクセはともかく
意図的にやってることは大体わかる?


  これは阿知賀にとどまらず、他の2校にも言えることです。
  千里山にしても、白糸台を2回倒すことを目標にしてきたにも関わらず
  照について十分な対策を用意していたといえない、どころかぶっつけ本番のような感じです。
  2回戦で阿知賀をマークしていた時と比較すると、やはりその差が際立ちます。

  阿知賀よりはるかに有名で、しかも第1・第4シード校の関係から
  抽選前から確実に準決勝でぶつかることがわかっていたであろう白糸台。そのエース・照
  怜に直接の対戦経験はなくても、セーラは以前に対局しているようですし
  他にも牌譜や映像等資料には事欠かなかったはず。
  なのに何故事前に対策をしなかったのかといえば、できなかったからとしか言いようがありません。
  データ分析にこだわる船Qがいながらにしてこれなのですから、よほどのことでしょう。

  なお、自分だけでは無理でも、他家の力を借りれば止められるかもしれない
  と怜は「鏡」を使われた後に気づきました。
  玄同様、試合前には念頭になかったことをきっかけに、怜の戦いは始まります。



  新道寺の場合、いっそすがすがしく「先鋒は捨てる」です。
  強い、作戦も立てられない→どうする?→あきらめろ というわけです。
  そして「絶対にトバない」すばら先輩を先鋒に据える選択をしました。

  10万点持ってる先鋒でトぶとかどうとか、
  一体どういう相手を想定しているんだというところなのですが、
  それほどの相手と言えば、やはりまず照を置いて他には考えられません。

  シードではない新道寺は抽選でABどちらのブロックに入るか、
  事前にはわかりませんでしたが
  準決勝そして決勝へと目指すならば必ず当たるであろう相手
  そこに照準を定めて、オーダーを組んできたと言うわけですね。



事前に無理なら、
鏡による観察が終わった前半終了後の休憩中に対策を授けたら・・・?
確かに後半戦では照は様子見しないことは既に周知のことでしたが。

・・・いや、それも無理。
長野県予選決勝の時を見ると、休憩時間はたった「5分間」です。
全国なら県予選より長めに取られているかもしれませんが、せいぜい10分でしょう。

手短にアドバイスしたり、励ますくらいはできても
それまで頭になかった作戦を急に叩き込むにはとても時間が足りません。



以上のことから、準決勝先鋒戦で特に作戦が立てられていなかった理由はただ一つ、単純明快

チャンピオン宮永照を前にしては「立てるだけ無駄」

これに尽きると思います。・・・って自分で書いといてなんですが、どんだけやねん。







ところで、ドラを切ったことでドラが集まる能力を失ってしまった玄に対して
赤土さんが「ドラ復活の儀式」と称して、ロングラン特訓を始めています。
ここまで書いてきたように、「ドラを切れとは言えないし言っても意味がない」が、ドラを切ることは「ありうる」
照の鏡でも読めなかったほどドラへのこだわりの強い玄について、
この展開を予想できたのは、昔から玄を知る赤土さんならではでしょうし、
そういう状況を見越したうえでの、作戦を立てられない代わりともいえる、玄のための赤土さんの準備だと思います。

この特訓を通して、玄の手にドラを呼び戻すとともに
玄の基礎雀力を上げることを狙いとしているようです。

この特訓、玄にとって、ひょっとしたら今までのどの対戦よりも密度の濃い練習になるかもしれません。


何故かと言うと、「2」で書きましたが
赤土さんの練習方針は、部員たちの長所を伸ばすことに主眼が置かれていました。
玄の場合、ドラが集まる打ち筋を生かした練習を繰り返し、
奈良王者の晩成や全国に進んだ各県代表とも渡り合えるくらいの火力を持ちましたが
必然的に「守りは薄い」という弱点は残り、全国屈指の強豪校エースには太刀打ちできませんでした。

ドラを切った玄に本来の長所であるドラは集まりません。
よって今行っている特訓は、長所を伸ばすのではなく、弱点を補強する、
ネット麻雀に向かった時の咲のような、これまで味わったことのない経験をもたらしてくれるのではないかと思います。

そして何より、対面の赤土さんの存在です。

「ドラこない・・・」
「こっちは面白いくらいにくるわー」 


基礎雀力において、玄より赤土さんの方が優れていることはもちろん
ドラが集まり、しかも切ったらもう来ない、なんてこともない。
ドラを自由自在に使って打てる、まさに玄にとって理想的とも言うべき打ち筋の相手が目の前にいるのです。

先鋒戦が終わってから次鋒→中堅→副将と、穏乃の大将戦開始までに6時間前後が経過していますが、
この間の数少ない玄のコマはほとんど涙目です。
そりゃ勝てません。普段の状態であっても勝ち目のない、「自分より遥かに強い自分」と向き合っているのですから。

ドラは来ないわ、勝てないわ。へこむ要素しかない状態ですが、
ドラなしで自分はどう戦うか、ドラを手に入れた赤土さんはどう打ってくるのか、学ぶことはたくさんあるはずです。
この特訓が決勝で生かされるのか、そもそも決勝に行けるのかどうか自体が先行き不透明ですが
今までよりもさらに強くなる可能性は秘めていると思いますよ。

だから、今は辛くても前を向いて
泣いて
泣いて   
泣いて
でも仲間を送り出す時には笑顔に戻る 
あ・・・  




またなんかネジが一本抜けたっぽい






以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。
まあ、占いじゃないですけど、当たるも八卦当たらぬも八卦といったところです。


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