コラム:咲 阿知賀編その6〜場面と台詞から類推してみると…〜 ※使用している画像について 今回は既に単行本化されている範囲では本編・阿知賀編共に単行本から撮ってきました。 2013年1月の段階で未収録のもの、あるいは見開きのページなど私の環境では撮りにくいものについては ヤングガンガンまたはガンガンの雑誌から引用しています。 |
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いきなり脱線気味な話から 去年ネットで知り合った同じ玄ちゃん好きの方が勧められていた 「花もて語れ」(片山ユキヲ・小学館)という漫画を読みました。 朗読という、地味と言えば地味なテーマのお話なのですが 物語の記述・・・場面の描写や台詞などから作品の雰囲気や登場人物の心情、 ひいては物語を書いた作者の意図を想像して、お話を読むという展開になるほどと思いました。 宮沢賢治の「やまなし」なんて子供の頃読みましたが、わけわからなかった。わけわからなかったもの! でも「花もて語れ」で久しぶりに「やまなし」に触れて、ああ、そうか、そういうことなのかーとやっと納得しました。 もちろん提示されたのはあくまで一つの「解釈」であり、正しいとは限りません。 でもせっかく読むのだから、自分なりに考えて、読み込んでみるともっと面白いかもしれない。 正解かどうかはわかりませんが、あっていれば嬉しいし、間違っていてもそれはそれで。 阿知賀編のコラム、今回で6回目になりますが このコラム、特に前回と今回のをまとめたのは、上に書いたようなことがきっかけです。 漫画には絵と言葉を通していろいろな情報が詰まっている(と思う)ので 「考えすぎー」「それ違うー」てのも多分にあることは重々承知の上で、 背景やキャラクターについて想像してみるのも楽しいかも?というところですね。 今回は主に阿知賀の5人について、場面や台詞を読んでふと思ったことを足がかりに、 これまで出てきた様々な状況なども組み合わせたりしながら、 キャラクターの性格や心情などを類推してみようと思います。 毎度のことながら、今回もあくまで「私はこう思いました」ということでして。 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるみたいな感じでいくつかピックアップしてみようと思います。 例によって例のごとく、付き合ってくださる暇があれば以下へどうぞ、お願いします。
これはストーリーの一幕をもとにした、あくまでパロディ(実際にはなかった)だとしても、 そりゃあ穏乃はびっくりしたでしょうね。 もちろん読者(私)もびっくりだ。 でも離れ離れになっていた3年の間に、 「憧がかつてとは全く違う様子になっていた」とまで言うとしたら、それはちょっと違うかもしれませんね。 確かに、憧は見違えました。 でもそれは小学生時代の、穏乃も知っている頃の憧をきちんと「基礎」にして、今のこの姿があるんだと思います これを説明するためには、小学生時代の憧をもう一度振り返ってみる必要があるかな、と。 そこで1巻p37〜40にかけて、1コマずつ描かれている 当時の思い出の場面を憧中心で抜き出してみました。
毎度私の環境だと、画像に色ムラが出てしまって何ですが、おわかりいただけたでしょうか?全部服違うよ! いずれもそんなに値が張りそうな、凝った服ではありません。フリルをあしらったドレス風の和に比べれば地味なものです。 しかし、常時ジャージの穏乃、制服の玄、クラブの子どもたちも服に目立った変更はなし 和についてはリボンなどの違いからいくつかのバリエーションがあるのがわかりますが これとこれは同じ服かな、というのも見受けられます。 (たとえば初めて麻雀クラブを訪れた時、赤土さんの誕生会、みんなでアイスを食べている、 赤土先生の話をしている、壮行会の場面では背中のリボンの有無があるものの、基本同じデザインの服)
周りの服装に大きな変化がない(そしてそれは漫画ではよくあること)なか、 一人これだけ変わると言うのはなかなかのものです。アニメでもこのへん、きっちり毎回違う服を着ています。 「ずっと同じ服」は漫画やアニメではよくあることであり、阿知賀編においても他のキャラについてはそうなのですから、 それだけに、憧の服の違いは意図的になされているものです。 憧には年の離れた姉(望さん)がいるので、そのおさがりが一部含まれていることも考えられますが 憧が当時から服にとても気を配る子であったことがこの辺からわかるのです。 さて、毎回変わる当時の憧の服、ここに注目してみると気づくことが2つあります
そして、もう一つはどれも「スカートではない」ということ (厳密に言うと、これもコンビニ前の場面。ここだけスカートですが、下にスパッツ履いてますね) これも穏乃と一緒の外遊びが多かったことと関連するかと思いますが 体を動かしやすい服装を好んでいたことがわかります。 ここまで見たところ、こう言うと語弊があるかもしれませんが、あまり「女の子らしい」服ではありませんね。 だからこそ、3年間で女子力が急上昇してる姿に穏乃がびっくりするのも無理ないわけですが 小学生⇒中学生に進むにあたって、憧がここまで変わったきっかけは そういう年頃だからというのも勿論あると思いますが、一番はやはり「制服」の存在でしょう。 小学生当時の穏乃・憧・和の登校の様子を見てわかるように、彼女たちが通っていた小学校には制服がありませんでした。 一方、阿太中にはあります。もちろんスカートです。 それまでスカートに履きなれていない憧からすると、初めて制服を着た頃はさぞかし気恥ずかしかったことでしょう。
そんなわけで、阿知賀へ戻ってきた時の憧の姿には正直「びっくりだ」 しかしそれは彼女の性格と彼女が身を置いた環境からすると「必然だった」と思うのですが、いかがでしょうか?
全国大会進出を決めた後、今後どのように練習していくか 遠征に行って、各県の2位と練習試合をしよう!という方針を打ち出す際に 赤土さんが語った思い出話です。 なんで昔は駄目だったんでしょうかね? 最初っからそういうルールだったのか、それとも何か過去に理由(不正?)があってそうなったのか。 小学生ともダメと言うのはかなりきつい縛りです。
まあ、そんな運営側の思惑を今考えてみてもしょうがないので、 今回ここでおさえておきたいのは、代表校になると、「昔は今以上に交流が制限されていた」 他校はもちろんのこと、「小学生とさえも」打つことを認められていなかった。 このようなルールがかつて存在していた。 だからこそ、インターハイを終え、つまり惨敗して帰ってきた時分になって
しかし、それだけに「これからも応援してます!」と伝え、ネクタイを貰ったにも関わらず 赤土さんが麻雀から引退状態になったと知った時のショックはどれほどのものだったのでしょう。 もちろんそこまでこの当時の赤土さんには知る由もなく、その責を問われる謂れはありません。ですが、 「ハルちゃんが麻雀やらないなら、私もやらない・・・」 灼が子ども心にそう決めてしまったのも無理からぬことだと思います。
しかし、このような憧れの反動から生じた赤土さんとの心理的な隔たりは、 麻雀部での活動を通して次第に埋まっていきます。 考えてみれば、灼が赤土さんのもとで麻雀を打つと言う今の状況に至るには あたかもゲームのフラグ立て・・・というと変なたとえですが、偶然も含めたさまざまな積み重ねが必要でした。 かつての灼にとっては不本意でも、牌を持つ気力さえも失った赤土さんが 麻雀への熱意を取り戻し、かつ後の麻雀部復活の土台となるためには、「こども麻雀クラブ」の存在は必要不可欠でした。 クラブでのリハビリを通して「自分がどれだけ麻雀が好きだったか」を思い出した赤土さんは 熊倉さんのスカウトを受諾し、福岡の実業団チームに入団する。 しかし、親会社の経営悪化で実業団チームは解散し、 チームがなくなっても社員でいられるという配慮はあったものの、やはり居づらく、赤土さんは阿知賀に戻ってくる・・・ この「手順」のいずれが欠けても、今の灼と赤土さんの関係はありません。 さらには、5人目の麻雀部員のために「宥姉が勧め、穏乃の頼みを受けて玄が誘いに来る」 そもそも麻雀部復活のきっかけである「和がインターミドルで優勝する瞬間を穏乃が見る」 こんなところまで含めてみると 灼が麻雀部で、あまつさえ部長として、赤土さんと共にいるのはものすごい運の上に成り立ったことなのだと言えるでしょう。
ルールを守って我慢していたのに、やっと前に出て「これからも応援してます」と言ったのに ネクタイをくれた時は嬉しかったのに・・・なのにあの人は麻雀をやめてしまった。 灼自身も麻雀をやめてしまうのも無理もないほどの、子ども心に受けた一つの「挫折」
・・・ ・・・OK、ちょっと待ちたまえ灼ちゃん。 ネクタイの結び目下すぎるでしょ 年度が上がる(=こちらも正式に赤土さんが阿知賀教職員・麻雀部顧問として就任する)際に これまでの蝶ネクタイから、あの思い出のネクタイに付け替えた、その気持ちはわかるのですが
察するに、これはネクタイを締める時に 赤土さんのネクタイで、だけでなく、赤土さんと同じような感じでまとめたかったんでしょうね。 蝶ネクタイをしている他のキャラクターを見てもわかるのですが、 阿知賀女子学院ではそんなにネクタイをきつくせず、緩い感じで身につけているのです。 10年前の赤土さんにしても同様です。
普通にキュッと締めるのであれば、灼の最初の結び目の位置で何も差し支えはありません。 でも、灼が赤土さんとの思い出を大事にしてきた子なのは言わずもがなのこと。 (確かハルちゃんはもっと緩い感じで締めてたかな・・・?)と思い出し、緩めて緩めて・・・ こうなっちゃったんでしょうね。 灼の性格からしてわざとやってるとは思えませんから、素の結果だと思います。 鏡の前でやった時にはしっかり締めていたので、家を出た後になって調整しようとしたんでしょう。 たとえるなら控室で身支度を整えてきたにも関わらず、舞台に出る寸前になってずれてるところがないか気になるような・・・ あるいはテストでちゃんと考えて解答を書いたはずなのに、 見直しするたびその答えであってるのか、不安になって書きなおしたくなるような・・・そんな感じ 「さあみんなで赤土さんのところに行こう」という いざその寸前になって人知れず何度もネクタイをいじっている灼の姿が想像できます。 けど、ネクタイって、慣れるまでは形とか長さのバランスとか、結構難しいものですからねー鏡も見ずにだとなおさら。 「そのままにしておけばよかったものを、一度気になるとしょうがなくなって」 「よせばいいのに手を加えてしまい、かえっておかしくなるという」 ・・・そんな経験ありませんか?まさにこれです。 思い出のネクタイを締めている姿を赤土さんに見てもらいたかったに違いないのですが どうにも見事に玉砕してしまっている感があります。残念。
しかし同じ3話で、その後の様子を見ていくと灼のネクタイの締め方はすぐに安定していきます。 慣れてきたというのももちろんありますが、 自分のネクタイを締めてくれている灼に赤土さんが声をかけないわけがないので ちょうどいいバランスを教えてくれたのでしょうね。 自分が10年も前に渡したネクタイを持っていてくれた、嬉しくないはずがありません。 「下手な締め方」も、そんな普段ネクタイを身につけるのに慣れていない子が この時のために用意してきたかと思えば、もうそれだけで笑みがこみあげてくるというものじゃないですか。 かくしてネクタイを通じて深まる師弟の絆。結果オーライ
個人的なことですが、私は今一つ記憶力が弱いです。 特に人の顔に関しては社会人として致命的じゃないか?と思うくらい苦手です。参った。 そんなこともあって、ストーリー上「それが当然」ということだとしても きちんと会った人のことを覚えているのは素晴らしいし、羨ましいと思ったりします。 ということで、この項では「記憶力」を観点にして、キャラクターたちについて振り返ってみようと思います。 ●すれ違った記憶も大切に 全国大会2日目の夜。 自分たちが2回戦で対戦する相手を研究するために、 愛宕監督から受け取った牌譜と映像をホテルの一室でチェックする千里山レギュラー陣 トーナメント表でうちに近いところ、と第6試合の映像を開いたら 怜が「あ、あの子」と覚えのある顔に気づき、続いて見た竜華も驚きます。
一人舞い上がっている竜華が微笑ましいシーンですが、これ、なかなかすごいことですよ。 全国大会2日目のことなので、サービスエリアで会ったのは確かにほんの数日前ですが ほんの数日前でも、何せ竜華・怜も、穏乃・憧・玄も互いには名乗らず、 どこの学校で何をしに行くのかも聞いていない(これから話が進む?)ところで別れたのですから。 穏乃たちの方は、別れた直後に二人が千里山であることを赤土さんから教わるわけですが 竜華たちからすれば、普通に考えれば、ここでそれっきりのすれ違い。 まず一生会うことがなかったであろう三人です。 なのに覚えている。素晴らしい。 繰り返しますが、名前や学校名や、そういう人を覚えるためのキーワード一切なしです。 これだけで彼女たちの優れた記憶力と人柄がうかがえます。 ホント、人と関わる立場において、相手の顔を覚えていると言うのは強力な武器です。 コラム1で10年前の灼との思い出を覚えていた赤土さんについて、「いい教師になれる」と書きましたし、
文堂さんについては、長野決勝では竹井部長に削られまくるという残念な成績を残してしまいましたが 2か月で部内ランキングをほぼ底辺からレギュラーの位置まで引き上げた努力は、 キャプテンの存在あってこそと言って過言ではありません。 人を育てるにあたり、「結果」だけじゃなく、こういう「過程」ってとても大事。 「あの人は私のことを知ってくれている」・・・団体を率いる上では、これは非常に重要な要素です。 大人数であればなおさらです。
怜を竜華たちが大切に思い、怜もそれに応えたように 竜華もまた、部員に信頼されるに足る器量を持っているのだと言えますね。 ●偏差値70は伊達じゃない。憧はやはり賢かった。
渋谷さんの打ち筋「ハーベストタイム」の法則を憧は赤土さんから教わっていました。 オーラスまでの全ての局で最初に切った牌がオーラスでは配牌として戻ってくる。 役満を狙って打てるのが強みで、それを防ぐためには切った牌が少ないほどいい。 対策は、できるだけ局を少なくする 「連荘しないこと」と「流局した時に親がテンパイしてないこと」 要するに毎回親番が流れちゃえばいいので、「対策自体は簡単でしょー」と憧自身も言っています。
まあ、計算が狂ったのはその場その状況によるので仕方ないでしょう。 それよりも、私が「やっぱり憧はすごいな」と思うのは 上に挙げた場面を見ての通り、渋谷さんの第一打を順番通りにきっちり覚えていることです。 これ、仮に野球でたとえてみますと、試しに打者が一巡するまでに ピッチャーが投げたそれぞれの第一球の球種が何であったか、記憶してみてください。 普段野球を見慣れている人でも相当意識しないとできない、面倒な作業であることがわかると思います。 渋谷さんが切る牌は役満の中でも作りやすいであろう大三元、 つまり字牌(白・發・中の三元牌。次点でやはり役満「字一色」狙いの東・南・西・北の風牌)に 絞られる可能性が高いとは言っても。 しかも、野球で言うスコアブック、麻雀なら牌譜。それが手元にあるならまだしも ここではメモしておくことさえもできません。 何より憧は今まさに対局中。バッターボックスに立っている真っ最中なのです。 自分がどうやって結果を出すかを考えるのだけでも大変なのに、 相手が最初に何を出したかをオーラスまでずっと記憶し続けていなければならない。
この後半戦においては、結局渋谷さんのハーベストタイムを止められず、大三元をしてやられてしまう憧ですが 結果はともかく、この過程において、憧の記憶力が非常に優れていることはわかるのではないかと思います。 もう一つ憧の記憶力が半端ではないことを示すエピソード
他にも、阿知賀に関する話で、何かに「気づく」「思い出す」ということがあった時には たいていそれは憧から始まっています。 伊達に「偏差値70(※元々受験するつもりだった晩成への合格ライン)」が余裕だとは言ってません。 これらのエピソードは憧の知力を十分に裏付けてくれるものだと思います。 ●そんな憧の記憶力を、穏乃が唯一上回ったこの場面
暗くてよく見えない、ということで昼間であれば憧もすぐわかったのかもしれません。 しかし、それよりも何よりも、ここで特筆すべきは穏乃が覚えていたことです。 憧が「誰だっけ」と言っている傍らで、「熊倉さん」と即答し、「福岡の監督」であったことも話しています。
いずれもその時点では顔見知りでなかった以上、別にこれらは珍しくもないことなので、 これらのことを取り上げて、穏乃の頭が悪いとは思いません。 けれど、少なくとも、憧よりは記憶力が確かではない そんな穏乃が、唯一、この場面では、赤土さんの隣にいるのが熊倉さんであることにいち早く気づいたのです。 熊倉さんと会ったのは4年近く前。 赤土さんをスカウトするために阿知賀を訪れた、おそらくそのただ一回であるというのに。 これはすなわち、穏乃にとって熊倉さんの存在がどれほどインパクトがあったものなのか 赤土さんの実業団入りが決まったあの日がどれだけ印象的で、そして衝撃的な一日であったかを物語っています。 憧が穏乃たちとは違う進路を目指すと聞き、 さらに部室に行けば、そこには赤土さんと熊倉さんの姿 当時小6の穏乃にとって、たたみかけるように急に降りかかってきた、別れの兆し。
赤土さんからすれば、そして客観的に見れば 福岡から遠路はるばる奈良を訪れ、阿知賀のレジェンド復活への道筋を作ってくれた「恩人」である熊倉さん しかし、穏乃からすれば、赤土さんを連れていってしまい、麻雀クラブを廃止に追い込む「原因」ともなった熊倉さん・・・ 「他の様々な記憶はあいまいでも、熊倉さんのことは覚えていた」 これは穏乃という子を考える上で、非常に大事な一面であると私は思っています。 一見能天気に見え、実際多分に能天気な穏乃ですが、 その彼女をして、しばらくは埋めがたかった喪失感のきっかけになった人だからです。
阿知賀編全般を見た時、主人公でありながらここまで穏乃の出番は確かにそれほど多くはありません。 でもそれだけに、出番が多かろうが少なかろうが穏乃を応援している!という方にはなおさら このあたりから読み取れる(と、私は思う)穏乃の心境を、ぜひ汲み取ってあげてほしいな、と思っています。
今回のコラムのラストは松実姉妹です。 麻雀部再結成のための「4人目」として、玄が穏乃・憧をともなって自宅にいる宥姉を誘った時のことです。 夏なのにコタツに潜っている宥姉の姿を見て穏乃は面食らうわけですが・・
「小4まで」というのは、宥姉が小6。つまり宥姉が卒業するまでってことですね。 同じ学校なんだし、バスでも一緒だったんだから覚えといてあげなよーと憧は軽く苦笑いしていますが・・・ ここでふと思ったのは このやりとりから穏乃と宥姉は、今通っている学校(阿知賀)は一緒、昔乗っていたバスも一緒だった。 でも「小学校も同じだった」とは言われていない
これは中1で「ようやく」話題になったと言うべきでしょうか 中学校のみならず、小学校も同じであったなら、面識はなくてももっと前から存在は知っていたはずです。 低学年のうちは自分のクラスや学年しか見えてないにしても、 この辺は子どもが少ない=児童数も限られてくることもふまえれば、 「夏でもマフラーをしている先輩の小学生」に、穏乃のみならずクラスの子たちも 宥姉が卒業するまでの4年間に気づかないことはまずありえないでしょう。宥姉と面識がある憧もいるというのに。 以上のことから、小4まで「確かに同じバスには乗っていた」 けれど穏乃・憧と宥姉が通っていた小学校は「別」 これはほぼ間違いないと思います。 そしてもう一つ・・・同じバスに穏乃・憧・宥姉が乗っていたことはわかりますが そうなるとあともう一人、この時玄は一緒に乗っていなかったのでしょうか? 普通に考えると宥姉と一つ違いの玄は、自然、姉よりもさらにもう一年、同じバスに乗っていたはずなのですが。
もっともこれだけで結論付けるのは早計でしょう。 宥姉のことを知らなかったように、穏乃が松実姉妹と面識を持ったのは玄がこども麻雀クラブに入って以降でしょうから、 バスに宥姉がいたことはもちろん、隣に玄がいたとしてもやはり覚えていないのは無理のないことですし、 また通学・通勤時間帯となると、バスもそれなりに混雑するでしょうから 声をかけたり、まして自己紹介したりするような場面がなくても仕方ない。 (穏乃が既に知っていると思っていたからか、憧も宥姉のことを当時特に紹介したりはしなかったようですし) また、バスに乗っていなかったとしても、それは単に一緒に登校はしていなかったと言うだけで、 学校は同じということも、もちろん兄弟姉妹には特に珍しいことではありません。 (母親が亡くなっている松実家ですから、家事を娘たちが引き受けなければいけない場面は日常的にあったでしょう。 他の仕事ならともかく、寒いのが苦手な宥姉に、特に水が冷たい朝の台所を任せるのは酷ですから、 「ここは私に任せて、おねーちゃんは先に行ってて」というのもありえることです) しかし、そういうケースが色々あることを差し引いても、この時のやりとりから 宥姉が、穏乃や憧どころか、場合によっては妹の玄とさえ違う学校であった可能性が否定できません。
繰り返しになりますが、これだけで結論付けるのは早計だとは思います。 しかし、外出が少ないとはいえ、あんな目立つ姿だからこそ、小学生の頃にほとんど知られていないのはかえっておかしい。 そして妹の玄はおそらく同じバスに乗っていない。 これらのことから、宥姉は小学生時代、一人別の学校に通っていたのでは?と思えるのです。 なぜ別の学校だったか・・・というと、学力がどうこうよりもやはり体質の問題だと思います。 どうしてあんなに寒がりなのかという根本的なところは、私にはまったくもって見当がつきませんが、 成長して基礎体力がついてきた今でさえ、夏でもこたつに潜り、9月で既にストーブを欲しがるほどなのですから 今よりも体が弱かったであろう幼少期に、一般の学校のカリキュラムに耐えられたとは思えません。 子どもの頃は、体質改善と体力向上のために特別に訓練を受け、 そこそこに一般生活をやっていけるようになってから、阿知賀に入学した。 そこで「ようやく」常時マフラーの姿が周りの子たちにも気づかれるようになった・・・という生活を送っていたのではないでしょうか。 体質を基準に考えると、みんなと違う学校に通っていたという方がむしろ自然なのではとさえ、私には思えてきます。 「あったかい色の赤い牌を集める」という宥姉の打ち筋は、この極度の寒がりに由来するものでしょう。 こと麻雀に関しては、「切ってもかまわない」と言う点で妹の玄よりも柔軟な特徴を持つ宥姉ですが、 日常生活においては、この体質は非常に大きなブレーキになってしまいます。 なにせ行動範囲が極端に制限されてしまいます。人格形成に与えた影響も大きかったはずです。
ところで、先ほども触れた麻雀部再結成の時の宥姉のこの発言
部に誘ってもらえて嬉しいと喜ぶ宥姉が、 「ずっと玄ちゃんが羨ましかったんだぁ」と微笑むこの場面ですが 実際に中学生で参加していた妹の立場は? ・・・いやいや、違いますよ?別に宥姉に当時の玄のことをとやかく言う意図は微塵もないですよ? (いいなぁ、と思っていたわけだし) 確かに阿知賀編第1話の時点で玄は中学生であり ここだけ見ると、小学生の中にただ一人交じっている中学生 宥姉が加わるのをちょっとためらってしまうのも無理のない様子には見えるかもしれません。 (ていうか、私自身がそんなことを思ってた時がありました。ごめんなさい) でも阿知賀編スタートは穏乃たちが6年生の4月 1学年違いの玄はつい先日まで穏乃たちと同様に小学生だったのです。 (上述の通り、学校が同じだったかどうかは不明ですが) 今まで慣れ親しんできたクラブ、しかも場所は今年自分が入学した学校の一室となれば 玄が行かなくなるわけもないですね。
あいにくここからほどなくして赤土さんが実業団入りを果たし、クラブが解散してしまったため 中学生メンバーは玄が最初で、結局唯一になってしまいましたが、 長く続いていれば、玄以外にも参加している中学生は現れたはず。 中学生が増えてさえいれば、「私も・・・」と宥姉が当時からひょっこり顔を出すチャンスもあるいは生まれていたかもしれません。 あくまでも仮定の話ですけどね。 ・・・ですが、 そういう「今までも参加してきた流れで」ということを考慮したとしても 中学に入学したばかりの玄が、新しいクラスで生まれるだろう新しい関係よりも これまで一緒にいた子どもたちとの交流の方を優先し続けてしまっていたことは否定しようもないと思います。 「ドラを大事にしなさい」という生前のお母さんの言葉を胸に、今のドラが集まる能力を得たことといい、 あるいは、解散して使われなくなった部室を、週に一回、木曜だけとはいえ、2年以上も守り続けてきたことといい、 とかく玄は思い出を大事にしすぎる子なのです。 宥姉が体質のことで、活動場所が制限されてしまう一方、 妹の玄は、こちらはこちらで主に気持ちの問題で、やはり同じもの、同じところに留まり続けてしまう傾向があります。 もちろん思い出を大事にすることが悪いわけではありません。大事にしたいほどの思いなのですから。 しかし、「守りたい」「大切にしたい」というこだわりは、 ドラが集まると言うよりむしろドラに縛られてしまっている、みんないない場所に一人取り残されてしまっている 玄の不器用な生き方に、あるいは打ち筋に直結してしまっているように感じます。
このような松実姉妹のキャラクターを振り返ってみると 二人に共通する成長の鍵は「前に向かうための一歩」であったかなと思います。
全国大会へ、さらにその頂へ向かう道を通して、二人は互いの一歩を踏み出しました。 それぞれに大きな意味があったと思いますが、一歩は一歩、さらに歩みを進めてこそ価値があるものでしょう。 玄はただいまドラ復活の特訓中。宥姉は妹より先んじて二回戦でも、準決勝でも強豪校に引けを取らない奮闘を見せました。 一歩また一歩、進んだ先に果たしてどんな道が開けているのか・・・さて、どうなるのでしょうね。 以上、今回はここまで主に阿知賀女子学院麻雀部について書いてきました。 最後に「彼女たちに共通すること」を考えてみるとすると、すぐにこれ、とはっきり絞れるわけではないでしょうけど あえて挙げるなら、やはり「距離感」と「その克服」だったかと私は思います。 穏乃・憧・玄と赤土先生、さらには和といった旧こども麻雀クラブのメンバーの隔たりは今さら言うに及ばず。 灼と赤土先生は、10年越しでやっと接点を取り戻した間柄。 玄と灼にしても、「灼ちゃん」「クロ」と麻雀部結成前から互いに名前で呼び合うあたり 必ずしも疎遠な関係だったとは言いませんが 赤土さん引退以来、灼が麻雀から離れていたことを玄が知らなかった以上 幼いころのような一緒に遊ぶ仲でなかったことは確かです。 さらには松実姉妹についてもそうです。あれほど仲が良い姉妹なのに 宥姉は妹が参加しているにも関わらず、こども麻雀クラブに自分も入りたいとは言い出せず、 玄もまた姉を誘おうとはしませんでした。 寒がり体質からくる互いの遠慮なり配慮なりもあったでしょうが、微妙な間があったことはやはり否めません。 玄が姉をようやく誘ったのは、部設立のためにという「必然性」があってからのことでした。
10年の時を経て復活した阿知賀女子学院麻雀部。 直接の土台を用意したのは玄です。 誰も使わなくなった麻雀部室を整え、自分の関係から宥姉・灼を麻雀部員に招き入れました。 麻雀部員を育て、全国でも戦えるように仕立てたのは赤土さんであり、その基礎はこども麻雀クラブにあるのですから 赤土さんのリハビリのためにと、クラブを設立した新子姉妹の存在もやはり大きいです。 もちろん憧の「復帰」は、麻雀部復活のための、心強い弾みにもなりました。 宥姉は2回戦以降苦戦続きの玄の後をしっかりと支えてくれましたし、 灼は赤土さんの後を継ぐ者として、数字的な派手さはないにしても、堅実に戦い抜きました。 しかし、この、みんなを繋ぐきっかけを作った、その大元はやはり穏乃です。 和の活躍を垣間見た穏乃が、和のいる場所を目指して走り始めたことです。 「全国大会に行きたい!」そう願い、そのために5人必要であったことが、互いの隔たりを乗り越える機会になりました。 2回戦終了後から準決勝前日にかけて、「赤土さんが再びいなくなってしまう?」とメンバーが心理的に危機に陥った時にも、 それを払拭し、それぞれの気持ちに再び火をつけたのも穏乃です。 もちろん穏乃だけではどうにもなりませんでしたが、穏乃がいなければ話は始まりませんでした。 憧は穏乃からの電話がなければ、おそらく予定通り晩成に行っていたでしょうし、 穏乃が連れ出してくれなければ、玄は場と人と、土台を整える要素を持ってはいても、 自分からは先に進めずに一人留まったままでした。 穏乃が引っ張ってくれたからこそ、憧は戻り、玄は前に向かうことができた。そして宥姉、灼、赤土さんへと。 阿知賀編の物語の発端はやはり穏乃(と、間接的に和)にあるのです。 だからこそ、たとえここまでの出番が多かろうと少なかろうと、あるいは麻雀の実力の優劣がどうであろうと、
今これを書いてる段階で2月の頭、もうじき次のガンガンが発売され 決着するところまで行くかはともかく、大将戦が大きく動くことにはおそらくなるでしょう。 阿知賀が勝ち抜けるのかどうか?それは見てみないとわかりません。 勝ってくれればそれは嬉しいですが、負ける可能性も決して低くないと思っています。 そして結果がいずれになるせよ、「阿知賀編」としてはやはりこれが最後の戦いとなるでしょう。 ならば勝っても負けても、精一杯、悔いのないように戦い抜いてほしいです。
以上、ここまで読んでいただきありがとうございました。 関連記事:咲 阿知賀編その1〜憧・穏乃・玄と「阿知賀こども麻雀クラブ」の子どもたち〜 :咲 阿知賀編その2〜漫画版とアニメ版 2人の玄ちゃん〜 :咲 阿知賀編その3〜怜は一体何を「改変完了」したのか?〜 :咲 阿知賀編その4〜仮説・ドラにまつわる玄ちゃんの記憶〜 :咲 阿知賀編その5〜「話の都合」と言われればそれまで?のことを真面目に考えてみる〜 :咲 阿知賀編その7〜いろいろなところにある「きっかけ」〜 :咲 阿知賀編寄り道〜一ヶ月遅れの探訪レポート〜 :咲 阿知賀編スタンプラリー〜歩いてきました吉野山〜 :咲 阿知賀編その8〜近いようで遠い、「あの人」への距離〜 :咲 阿知賀編キャラクター紹介〜『阿知賀こども麻雀クラブ!』〜 :咲 阿知賀編ヒストリー〜年表(阿知賀女子学院のあゆみ)〜 |