『くろちゃん日和21~静かな春を前に~』



『静亭』


吉野山の中腹にあるお食事処
ふもとから行くと、吉水神社に向かう坂を過ぎてさらにその先
15年ほど前に不審火で焼失した勝手神社の向かいにあるお店です。


店名の由来は、源義経の愛妾、静御前とのことです。
吉野山にて義経と別れた静御前が、その後、追っ手に捕らわれ
上述の勝手神社にて舞を舞ったという史実に由来します。



さらに後、静御前は義経の兄である源頼朝のいる鎌倉まで送られ
「吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき」と
義経を思う舞を、鶴岡八幡宮で舞ったという話が有名です。



静亭の名刺左のイラストが静御前


私の知る限り、現時点でこの静亭周辺が
阿知賀編など咲-Saki-関連作品において背景として描かれたことはありません。
ありませんが、それでも吉野山を訪れるにあたって、
ぜひおさえておいていただきたい場所の一つです。

といいますのは、まだ阿知賀編の連載が続いていた頃
吉野山における探訪の先達の一人である「ひでさん」が
咲-Saki-シリーズと吉野山との関わりを地元の方に紹介されたところ
最初に手を挙げてくださったのが、この静亭さんだったということです。

そのため、現時点では大和上市の観光案内所も含め、何件かの場所で
咲-Saki-に関するスペースやノートを設けてくださっているところがありますが、
その第一号が、この静亭さんなのです。
 ※現在は1階フロアのリフォームに伴い、2階にコーナーが移動しています。

私が初めて咲-Saki-関係で吉野山を訪れた
決勝進出満願成就イベント」における昼食場所もここでした。
本当におかげさまをもちまして~、なのです。





観光特急「青の交響曲」が運行開始された頃の
「関西ウォーカー」の記事。
静亭が紹介されてました。


おすすめ料理は葛うどん。言葉通り、葛で作ったうどんですね。
冬の寒~い時期なら味噌煮込みうどんも個人的におすすめです。
体の芯からホカホカと温まるので、あちこち歩き回った後には
「着いたらあれ食べよう!」と心に決めちゃってたりします(笑)

もちろん他にも鴨ハンバーグとか、山菜どんぶりとか、いろいろありますよ。
見晴らしともてなしが評判なのか、毎月ついたちに必ず来られるリピーターさんもいらっしゃるとか。





ちなみにこれは「スタンプラリー」の頃にも紹介しましたが
オムライス(オムカレーもありました。今もあるのかな?)を注文すると
ケチャップ(オムカレーの場合はマヨネーズ)で字を書いてもらえちゃったりなんかします(笑)

ごちそうさまでしたっ







3月も終わり、暦は4月に。学校は春休みになりました。
でも木曜日はいつも通り、部室のお掃除をする日です。
なんとなんと、今日は和ちゃんも来てくれました!なんだかうれしいな。

掃除が終わったら、みんなでお昼ごはん!ふふふ~今日はがんばっちゃうよ~





玄「ということで、今日のお昼はみなさん、このお店です!」

桜子「おおー」パチパチ

ひな「何がでるかな、何が出るかな」

和「何かの番組の始まりか何かですか」

綾「いつの間にか玄ちゃんが学生服から、お店の人の服に変わってるんだけど」





和「それで、今回の趣旨は?」

玄「いやーせっかくの春休みだし、みんな来てくれたし。楽しく会食でもしたいなーって」

綾「それはわかるんだけど、玄ちゃんがお店の格好になってるのはどうして?」

玄「まあ、正直に言うと
  みんなにごちそうしてあげたいところなんだけど、私のおこづかいではさすがにまかないきれないんだよね」

綾「あ…」

桜子「私たち、お昼代、家でもらってきてるよ?」

ひな「それなりに」

玄「だよね。でも多分、ここでお食事するにはちょっと足りないんじゃないかなーって。
  いや、ここだってそんなに高いお店じゃないんだけど、
  小学生のみんなの『それなり』だと、ね?」

綾「うーん」

玄「それで、ここのお店の人に前もって相談して、
  ほんのちょっとの間だけど、お店のお手伝いをするからってことで、少しまけてもらったんだ」



桜子「じゃあ、玄ちゃんがお料理するの?」

ひな「確かに玄ちゃんのお料理はとっても美味」

玄「ううん、それは無理。お店の味ってものがあるし、そもそも衛生管理上、厨房に手を出すのは問題があるもん。
  注文を聞いたり、できあがったお料理を運んだり片付けたり。そのあたりだね」

綾「それでも…な、なんか悪いな…」

和「私、多分この子たちより少しはお金持ってきてますよ?」

玄「女将さんも、『気にしなくていいのに』って言ってくれたんだけどねー。
  でもまあ、甘えるばかりというわけにもいかないし、私自身の気分の問題だよ」

和「でも…」

玄「もうこれで話を成立させちゃってるから、みんなが心配する必要はないよ?
  せっかくだから、ここのお料理を楽しんでほしいな!おいしいよー」



綾「…じゃあ、玄ちゃん。ここのおすすめはなに?」

玄「そうだねーやっぱり葛うどんかな!」

和「葛うどん?」

玄「その名の通り、葛から作ったうどんだね。吉野葛はこの地域の名産だから。
  これが料理の写真。普通のうどんとはまた違った食感が楽しめるよ」

綾「おいしそうだね」

和「頼んでも、大丈夫なんですか?」

玄「そうじゃなきゃ言わないよ~じゃあ、2名様葛うどんご注文!でいいかな?」

綾「うん」

和「お願いします」



ひな「山菜どんぶりってのもあるんだね~」

玄「これはこれは、なかなか渋いところをついてきましたね!」

ひな「えっへん。“山谷”ひなだからねー…なんちゃって。で、おいしい?」

玄「もちろん!山で取れた山菜にホカホカの卵をたっぷりかけて!スルスルッと食べられちゃうよ!」

ひな「ふむふむ、じゃあそれで!」



桜子「卵と言えば、オムライスなんかもあるんだなぁ」

玄「…実はお客さん、オムライスには特別サービスがありまして」

桜子「お?」

玄「言ってくれれば、ケチャップで好きな文字を入れることができるんですよ?」

桜子「ほほー、じゃあ玄ちゃん、私の名前入れて!」

玄「おまかせあれ!」



和「…慣れてますね、玄さん」

綾「旅館の娘さんだもんね。むしろ楽しそうなくらいで接客してるよね」








和「おいしい…」

綾「うん、すっごくツルツルしてる!」

ひな「どれどれ?」横からパクッ

和「あ」

ひな「うーん、こっちも美味ー」

綾「ちょっとー!」



玄「桜、子、ち、ゃ、ん…と。はいっ、できました♪」

桜子「やったー」



ひな「もう一口、もう一口♪」

綾「もう~、しょうがないなぁ~」



※和には「ラーメンを食べ慣れていない」といった感じの描写が咲本編の2巻にあるのですが
上記の通り、ここで食べているのは、ラーメンではなく葛うどんです。
そういえば阿知賀編2巻で穏乃が「ラーメン食べたい」と言っている場面がありますが
吉野山でラーメン食べられるところってあるのかなぁ







和「ここ、いい眺めですね…」

玄「でしょう?向こうの山が一望できるんだよね。これからの季節は桜がきれいなんだ。
  憧ちゃんちも『一目千本』と言って、たくさんの桜が見られるって有名だけど
  ここの景色もなかなかのなかなかだよ」

桜子「へー」

玄「夏は緑がきれいだし、秋も紅葉の季節なんか素敵なんだよ。
  まあ、さすがに冬は『さむい…』ってお姉ちゃんも震えちゃうかもだけど」

和「お姉さん…ああ、この間のてるてる坊主の」

玄「うん、でもその頃はその頃で、室内であったか~いお料理を食べながら過ごすのもいいものだね。
  みんなでテーブルを囲んで、ぐつぐつと煮込んだお鍋とかおうどんとか…」

桜子「…ゴクッ」

ひな「今ごはん食べたばかりなのに、おなかがすく…」

綾「私のうどんまで食べちゃったくせに。でも気持ちはわかる」



玄「でもやっぱり、華は桜、かな?
  あと一週間もすれば、ここもパーッと開いて、一面の花が見られると思うよ!」

和「一週間…」

桜子「おおー」

ひな「でも、その頃にはお客さんもいっぱいで大忙しなんじゃないかなー」

玄「だねー。なんといっても春は吉野山一番の書き入れ時だから。
  『せっかくの桜なんだけど、私らは見るヒマがないんだよねー』なんて話もご近所でよく聞くかも」

桜子「そういや、しずちゃんも昔『この時期は家の手伝いで忙しい』って言ってたっけ」

ひな「おみやげ売ってるお店だったよね」

綾「というか、それを言うなら、玄ちゃんちの旅館だって、てんてこまいになってるんじゃ」

玄「うっ。た、確かに。
  でも何とか時間は作るから、来週のこの時間も、みなさんどうぞお忘れなく!」

綾「ふふっ、何かの宣伝みたい」

ひな「でも楽しみー」

桜子「来週ならまだ春休みだし、あとは天気の問題だけだねっ」

玄「うんうん♪」





和「来週…」



和「……」

















し、穏乃ちゃん、憧ちゃん…

どうしよう…


和ちゃん…いなくなっちゃうよ…!






日ごろお世話になっている場所を背景にしている割には、
楽しい感じで終わる話でないのが何ともアレですが…
(こと店内では楽しく過ごしてますけど)

今回はこのシリーズを描いていくうえで避けて通れない(と思っている)
番外編で久しぶりに会ったばかりの和に、別れを告げられる話でした。

で出会って、で灼のところでボウリングして、で宥姉からてるてる坊主をもらって
やっとというか、ついにというか、ここに来ちゃったという感じです。


「部室に和ちゃんが来てくれた!やったー!」…と喜んでいたら
実は転校が決まったことを知らせるためだったという。

かつて『日刊・咲-Saki-』さんの「阿知賀女子学院・部活動日誌」を読んで
「うんうん、そんな感じだった気がしますよね」と
共感だったり、影響だったり、いろいろと考えさせられた覚えがあります。


ちなみに「費用の足りない分をまかなうために、ちょっとお店のお手伝いをする」
というのはアニメ阿知賀編のドラマCD『バイト&バイト』の話をヒントにしています。


振り返れば番外編のラストにて、

  「でも今日はよかったぁ。またみんなで集まることがあるかもってわかったから」
  「またいつか楽しいことがある。そう思えたから」

と、玄ちゃんはこのようなことを言っています。

「穏乃にも憧にも会えなかったのに、どうしてそう思えるの?」と
正直疑問に思ったこともありました。
少しだけでも再会できた、それが嬉しい、という気持ちもあったと思いますが
改めて振り返ってみると、この思考のカギは、子どもたちと、
そして他ならぬ和の存在だったのでしょう。


阿知賀編第1局『邂逅』の終盤にて、
阿知賀女子学院の部活動のあり方についてこのように明言されています。

  穏乃「この学校は同好会は二人からだからまずそれで…」
  玄「5人揃ったら部活に昇格だね!」

麻雀部にするためには5人必要ですが、同好会なら2人から可能でした。
また部なら顧問も必要だと思いますが、同好会ならその制限もないようです。


実際、部員候補として宥姉と灼を紹介するときには、
赤土さんがまだいない、憧は阿太中生。
正式な会員といえるのは当時高1の玄と中3の穏乃のみという段階で
既に「同好会」を名乗っていました。2人以上であることさえ満たせば中等部でも可。

そう、玄とせめてあと1人だけでも阿知賀の学生がいれば、
部は無理でも同好会になら、なることができたのです。
「あと1人」いれば。


もうここまで書けば、あとは言わずもがなかもしれませんが、
つまり和がいれば、和が了承してくれれば、
あの春に、阿知賀こども麻雀クラブを同好会という形で
復活させることが実は可能だったのです。

場所さえできれば穏乃にも声をかけやすいでしょうし、子どもたちも来てくれる。
あわよくば、練習試合のような形でくらいなら、
憧のいる阿太中に打診することも可能だったかもしれない。

「またみんなで集まることがあるかも」は気休めでも気まぐれでもない。
あの日みんなが来てくれたことで、玄ちゃんの頭の中で描かれた夢だったのですね。
しかしその夢が、広がる前に、和の転校が決まったことであっさりと崩れてしまうという。


もちろん、未来を知った今の立場から見れば、
「部を作りたいのなら、宥姉や灼に声をかければいいのに…」と言えなくもありません。

ただ、当時の玄ちゃんが思い描いていたのが
阿知賀こども麻雀クラブで和気あいあいと過ごしていた「あの頃」であったこと
宥姉や灼がクラブへの参加に必ずしも積極的ではなかったこと
そういったブランクが、当時のみんなには存在していたのですよね。
…そんな互いの「間」を埋めるのは、まだもう少し先の話。


ともかく、せっかく会えたばかりの和が、転校していくことが決まってしまいました。
あと2回ほどかけて、和の転校エピソードを描いてみたいと思います。




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