『くろちゃん日和⑫~転がるボールの行く先は~』


『吉野ラッキーボウル』


灼のおばあちゃんが経営しているボウリング場「Sagimori Lanes」の
おそらくモデルの一つになっているであろう、
吉野近辺にある数少ない遊戯施設の一つです。

ただし、コラム8でも触れましたが、
吉野近辺と言っても吉野山にはなく、その隣町、大淀町にあります。




そのため、実際の吉野ラッキーボウルと位置は必ずしも重ならないものの
玄が灼のところへ行く描写の背景は、大淀町のものになっています。
(右のコマの奥に見えるのは大淀町増口コミュニティセンター。阿知賀編2巻の裏表紙もここ)

隣とはいえ、町が違うと言うことは、校区の観点から通った小学校が違うと言うことにつながり、
それが玄と灼が疎遠になった一因ではないかと考えています。

有珠山の幼なじみ3人組もそうだったようですが
通う場所が違うと言うのは、かなり大きな隔たりですので。
ましてや自力での活動範囲が限定される子どもならばなおさら。

家と仕事場が別々と言うことも
もちろんありえるのですが、
ボウリング場に行くことを指して
「灼ちゃん家」と言っているので
やはりこの近辺に住んでいると
考えるのが自然でしょうか。

幼い頃よく遊んだけど今は…ということは、特段、珍しいことではありません。
ありませんが、だからこそ再び同じ道を歩む関係になれたのも素敵なことです。


それもまた、強敵と相対する試練含みとはいえ、
阿知賀女子学院麻雀部が復活したおかげ、と言えますね。






~話の始まりは、和がまだ阿知賀にいた頃の、季節は春へと移り変わる3月のある日のこと~ 



灼「いらっしゃいませ。…って、クロ?」

玄「灼ちゃん、こんにちはー」


桜子「こんにちはー」

ひな「ちはー三河屋でーす」

和「…なんですか?それ」

桜子「さあ、早速いいボールを探そー!」

ひな「おー」

和「2人とも、靴、靴」


綾「こんにちはー。玄ちゃん、ここの人と知り合いなの?」

玄「うん。子どもの頃からの幼なじみだよ」

綾「へー、そうなんだー」










灼(…)

灼(この子たち、玄が連れてきていると言うことは…きっと『あの教室』の子たちだね)

灼(『あの人』…まだ、そんなことやってるんだ…)

灼(…)

灼(ま、もう私には関係ないことか)



灼「で、何の用?」

玄「うん!今日は山を下りて、河原へピクニックに来たの!
  それでせっかくだからここに寄らせてもらって、ボウリングで遊ぼうと思って!」

灼「そう、最近だいぶ暖かくなってきたしね。…ま、そういうことならお客さんだ。歓迎する…」

玄「うん!」


桜子「ボウリングってあんまりやったことないなぁ」

ひな「私もー。なかなかこっちまで来れないもんね」

和「簡単に言えば、ここからボールを投げて、向こうにあるピンをたくさん倒せばいいんですよね?」



桜子「ボール…」ズッシリ

ひな「丸くて、大きな…」なでなで


和「どこ見て言ってますかー!ってまたこのオチですかー!?」





~結果~




灼(…)

灼(何となく受付から遠目で見てただけだけど…)

灼(初心者がおちいりやすいパターンの見本市)

灼(しかもみんなミスの仕方が違う。ある意味すご…)







ひな「右に投げたのにボールは左端!すごいよ!大カーブだよ!」

桜子「球速ないから三振は取れないけどね~」

綾「ボウリングの球なんか打たないよ?」


桜子「せっかくピンを倒したのにー!足元で赤いランプがついてるよー!」

和「…ラインを踏まなければいいんですよ?」

桜子「そうだけどー!わかってるけどー!勢いがー!」


綾「また⑦⑩、また⑦⑩…スコアに○がつくのもうイヤ~」

ひな「ご愁傷様です」

綾「縁起でもない!」


和「狙い通りに投げたはずなのですが…」

桜子「ピンとピンの間をすり抜けるように行っちゃったよ!」

ひな「ゲートボール?」

綾「ある意味すごいよね」


玄「み、みんな慣れてないんだから、うまくいかないのは仕方がないよ?」

桜子「そう言うくろちゃんだってーミス多いぞー」

ひな「ぞー」

玄「うっ、む~??」



灼(…いや、初心者の割にはむしろよく投げてるよ。最初は投げてすぐガーター落ちも珍しくないもの)

灼(でも…なんか、もどかし…)







灼「しょうがな…」ふう

玄「あれ?灼ちゃん、一緒にやってくれるの?」

灼「今はお客さんもそんなに来てないしね。こっちも商売だし、これでボウリングが苦手だと思われても困る」

玄「うんうん!みんなー!こちらの鷺森灼ちゃんが!みんなにコーチをしてくれるってー!」

灼「私もそれほど上手なわけじゃないから、そんな大げさに言うほどのことでは…」

玄「さーみんな、鷺森先生にごあいさつだよー!」

灼「聞いてないし」







灼(『さぎもりボウリング教室』って…玄、どこからあんな幕見つけてきたのか…)

灼(確かにボウリング教室はあるけど。張り紙もしてあるし)

灼(でも、ほんのちょっと教えるだけなのに…オーバーにもほどがある…)

灼(私が教室だなんて…まるで『あの人』みたいじゃないか…)

灼(…)






~そして、時は流れて2年後~








灼「部長…私が、部長か…」

灼「最初、名前を貸すだけって言ったんだけどな。あれよあれよという間にこんなことに」


灼「突然のお願いはメリット少ないって、わかってたけど…ホント、うまいことかつがされた…」はぁ

玄「部長!灼ちゃん、頼りにしてるよっ」

灼「私に言わせれば、宥さんはともかく、なんで玄が部長をしないのかって話だよ」

玄「でも灼ちゃん、すぐに乗ってくれたって、赤土さんが言ってたよ?」

灼「…ん、それは、さ、うん、まあ、ね…ああ、もう!」




・・・・・・




玄「…」

灼「…」

灼「2年前はもっと初心者の子たちがいたからそんなに気に留めなかったけど…」

灼「改めて見ると…クロ、これはちょっとひど…」

玄「うっ!」








玄「で、でもストライクだよ?全部倒してる時だってあるんだよ?」

灼「なんで次のフレームで必ず外すの」

玄「ううっ」

晴絵「ストライクとかスペアとかって、次の回でもピンを倒してこそ価値があるもんなぁ」

灼「でないとただの10点」

晴絵「ストライク取っても、次がガタガタだから結局トータルで伸びないかー」

灼「スプリットでも何でも、毎回少なからず倒してる綾の方がまだマシ」

玄「うううっっ~」

綾「あはははは…」


灼「クロ…インハイ終わったら、特訓ね」

玄「えー!?」





・・・・・・








灼「久しぶり…」

和「お久しぶりです…」

灼「まさかここで会うとは、ね。玄たちから和って名前は聞いてたけど、
  写真見るまでそれが誰だかわかってなかった」

和「私は阿知賀女子がインターハイに出ていたこと自体、つい最近知りました」

灼「ふうん…じゃ、お互い様だ」


灼「穏乃がよく言ってるよ?和とまた遊ぶんだって。
  まさか穏乃でも憧でも玄でもなく、私が対戦するとは思わなかったけど…これも何かの縁」

和「はい…」

灼「でも勝負は勝負。負けない」

和「はい…!」







・・・・・・







灼「ねえ、玄」

玄「なに、灼ちゃん」

灼「振り返って考えたらさ、私たちって、ここに来るまで結構遠回りしてたよね」

玄「…うん。それは、そうかも」

灼「きっとさ、もっと簡単な方法とか、楽な道もあったよね」

玄「うん…それもそうだね」


玄「でもそんな回り道をしてきたからこそ、今の私たちがあるんじゃないかな?」

灼「そうかな?」

玄「うん、だからきっと、遠回りも、ムダじゃなかったんだよ」

灼「ん…だと、いいね」

玄「うん、きっとそうだよ!」



灼「でも帰ったら特訓はするから」

玄「えー!?」

灼「せっかくストライク取れる力はあるのに、それを生かせないのは惜しい」

玄「うー」

灼「がんばれ」

晴絵「ははは、せっかく教えてくれるって言うんだ。やってみればいいよ、玄」



灼「せっかくと言うことなら、ハルちゃんもやろう」

晴絵「私も!?」

灼「ボウリングは激しい動きがいらないから、子どもからお年寄りまで誰でもできるスポーツ。
  親睦会でもよく使われる」

灼「ハルちゃんがどんな道に進むとしても、覚えておいて損はない」キラーン

晴絵「お、おう…?」



~そして後日、阿知賀こども麻雀クラブならぬ『阿知賀鷺森ボウリング教室』が始まったとか何とか~






灼(人に教えることで、気付くこともある。出会うこともある)


灼(そう思えば、子どもと戯れるのも…悪いことでもないかも)



灼(…ま、今さら…だけど、ね)







ということで、いつもよりも台詞多めの12回目。
「阿知賀にいた頃のうちに、和と灼を会わせてみたかった」というのが今回のねらいでした。


現時点ではまだわかりませんが
 ※実は、これを更新する直前にBの準決勝が終了したのですが、まだ点数結果が出てませんので。
  リーチ棒分とか、絶対にないとは言い切れませんし。

Bブロック準決勝の結果、清澄が勝ち抜けを果たしたあかつきには
決勝にて同じ副将として、和と卓を囲むことになるのは
穏乃でも憧でも玄でもなく、灼。

宮永姉妹が先鋒と大将に分かれていて、やはり直接対戦をしないのと同様に
過去に縁のあった相手と団体戦ではあえてぶつからないようにオーダーを組まれているのは
何か意味があるのかもしれませんが、
それはそれとして、ごくわずかな関わりでもいいから
和と灼の間にも、何か接点があればいいな、というのがコンセプトです。

阿知賀編2話において、玄に誘われるまで、
穏乃・憧と灼との間に面識がなかったことは確定しているため
もし和と灼につながりがありうるとすれば、
番外編~和転校までのこの1ヶ月の間にしかないだろうなって。




この話のポイントとしては、
かつての赤土先生みたいに灼がボウリングを教えることで、
和も含めた阿知賀っ子たちとの親睦の機会を持たせる一方、
冒頭に書いたように「まだ麻雀教室やってるんだ」と誤解してしまい
その時点での玄や赤土先生との距離は依然保たれてしまうという。
 ※実際の作中でも、麻雀部復活に向けて玄が誘いに来た時まで
   灼は「まだやってんの?あの麻雀教室」と話していました。


こういう、その時その直後には関係が改善するきっかけにはならなかったけれど
時を経て、めぐりめぐって、いつかあの時のことが役に立つ、
みたいなこともあるかなぁとも思いました。


例の「ネクタイ」のエピソードなどもまさにそれでしょうか。
「結果」って、すぐに出るものばかりじゃないですもんね。





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