『くろちゃん日和L〜私のサンタクロース〜』


玄「12月23日は桜子ちゃんの誕生日。そしてクリスマスイブの前日です」



ひな「ちなみにイブは夜という意味。前の日と言うことではありません。
   なので、23日のことをクリスマスイブイブと呼ぶことは、意味としてはおかしいんだよ」

綾「詳しいね?」

ひな「言葉を使うにはそれなりに知識がいるからねー」えっへん


桜子「それ知ってるけど、
   でも、まー、この国にはあんまり関係ない気もするなーって、おとーさんが言ってた」

玄「あー、ギバードさん?外国の方からするとそう感じるのかな」

ひな「この時期ってさ、クリスマスを祝ったかと思えば
   大晦日にお寺の除夜の鐘を聞いて、年が明けたら神社に初詣だもんね」

綾「めちゃめちゃだよね」

桜子「そーゆーのも、いい加減かもしれないけど、日本の良さでもあるかもね、だってさ」







玄「桜子ちゃん、お誕生日おめでとう!」

桜子「ありがとー!」

ひな「そしてメリークリスマス、だよー」

綾「それは一日早いけどねー」


玄「明日は明日でケーキを用意して食べよっか」

桜子「おー♪」

綾「パーティーの連荘だね」

ひな「師走の風物詩ー」

桜子「楽しいことは何度あってもいいんだよっ!」(こぶしをグッ)

綾「おーおー、はりきってるねー」

桜子「よくひとまとめにされるからっ!」(さらにグッ)

綾「あ、なんか実感こもってる」


桜子「綾ちゃんはいいよねーお祝いごととかぶってなくてさー」

綾「何故か、らしくもなくやさぐれてる!?
  私に言わせれば、誕生日が必ず祝日の2人の方がうらやましいよ?」

玄「来月もちゃんとお祝いするから、待っててね」

綾「…あ、いや、そういうおねだりをしたわけでは…でも、ありがと…」


ひな「祝日の上に目立ったかぶりもない、わたしこそ真の勝ち組ー?」ぶいっ

桜子「しかもゴールデンウィーク始まったところだし!」

綾「最強だよね」

玄「ふふっ」





綾「で、衣装なんだけど…トナカイでよかったの?今日の主役なのに」

桜子「うん!こーゆーのは、いっしょにはしゃがないとソンだよっ」

玄「ちなみにフードやアクセサリーを外せば、そのままパジャマにもなるんだよ〜」

ひな「凝ってるねー」








桜子「ひゃっほー、あったか〜い。このまま松実館までゴー!ゴー!!」

綾「ふふ、桜子、はしゃいでる」

ひな「タヌキさんの分まで用意してくれてありがとー、玄ちゃん」

玄「どういたしまして。…綾ちゃんのは首回りがちょっと寒かったかな、大丈夫?」

綾「うん、生地があったかいから、全然心配いらないよ。ありがとう。
  ところで、これって私の普段着をモデルにしてくれてるのかな?」

玄「お察しのとおり。うちにはみんなの写真があるからねー
  ちなみに私のは阿知賀の制服だよ」

桜子「おー、確かに」

綾「みんな衣装のデザインが違うんだけど、これはどこから…」

玄「がんばって作りましたっ!」フンッ

綾「ええっ!?」

ひな「妙技!」



綾「ちょっと前に私たちのサイズを測ってくれてたのって、そーゆーこと…」

桜子「すごーい。玄ちゃん、料理と掃除が得意なのは知ってたけど、
   仕立てもできるんだ」

ひな「衣食住フル装備だね。これは良物件っ」

綾「ちょっと待って。ひな、その言いまわしはちょっと待って」

玄「あはは。いやー、それがもう、大変で大変で。
  やってみたいなーって思ったのはいいんだけど、なかなかイメージ通りにならなくて。
  みんなのサイズと合ったのがわかって、正直ホッとしてるよ」

ひな「そうなんだ。なのに、ちゃんと全員分揃えてくれるなんて、感謝だよー」

綾「背が伸びたら、着られなくなるの、もったいないな…」

桜子「クロちゃー!ありがとうっ!」

玄「こんなに喜んでくれれば、私も嬉しいよ」

桜子「大喜びだよ!」

玄「そう?よかったー」





玄(うん、本当に、作ってみてよかった)

玄(だって、それは、私自身が子どもの頃。みんなよりももっと、小さかった頃…)







  (……)


  (あれから…もう、10年くらいの時が経って…)

  (もう、私の一番のサンタクロースは…私のおかーさんは、いない…)

  (もう、私たちと一緒に、クリスマスをお祝いしては、くれない)


  (だけど、おかーさんと一緒に過ごした思い出は、ちゃんと、ここに残ってて…)

  (すごく、楽しかったなって、覚えてて…)

  (もし、その気持ちを思い出しながら、私にも同じことができたなら…)

  (きっと、子どもの頃の私のように、喜んでもらえるかなって。
   そして…おかーさんの姿を、ここに感じられたりはしないかなって)

  (そう、思ったんだ)





桜子「ジングルベールジングルベール♪ メリークリスマース!」

ひな「桜子待ってよー、玄ちゃんたちも早くいこー!宥おねーさんも待ってるよー!」

桜子「きっと、おこたでね〜♪」

ひな「あははっ、間違いないね〜♪」

綾「玄ちゃんのおかげで、みんなのテンションアップだねー」

玄「…うんっ」



玄(おかーさん、私…ちょっと、がんばったよ…)







綾「桜子もひなも寝ちゃった。すっごくはしゃいでたもんなぁ。
  …あれ?玄ちゃんも寝ちゃってる」

宥「玄ちゃん、ここのところしばらく夜更かしが続いてたから。ホッとしたんだと思うよ」

綾「そうだよね…この服、大事にしなきゃ。
  ところで、宥おねーさんもトナカイなんですね?」

宥「うん、これ、あったか〜いんだ♪」

綾「くすっ」


宥「よく寝てるから、起こすのかわいそうだし、でもカゼをひいちゃったら寒いから
  毛布をかけてあげよっか」

綾「はーい」





玄「……」

宥(玄ちゃん…)

玄「…おねーちゃん…おとーさん…………おかー…さん……」

宥(……ふふっ)



(素敵なサンタを、クリスマスをありがとう、玄ちゃん…)







ということで、くろちゃん日和、13回目でした。
1年前に描いたB「一日早めのメリークリスマス!」のリメイクなのですが
こういう話の流れになったのは、そのBをおおよそ描き終えた後になってから頭に浮かんできたイメージです。

と言うのは、当時の雑記にも書きましたが、
「玄ちゃんと宥姉、松実姉妹が、果たしてクリスマスを楽しみにしていたのだろうか」という点です。
クリスマスと言えば、子ども心には「サンタさんがプレゼントをくれる日」だと思いますが
二人にしてみれば、一番欲しかった、失いたくなかったものを、サンタクロースはくれなかったのですね。
幼い時期に、何よりも辛い現実に直面した子どもたちが、
果たしてそんなおとぎ話を信じて楽しむことができたのかな、と。

もちろん、たとえば咲日和阿知賀の巻Bを見ると、流れ星に願いをかけていたり、
ドラマCDではみんなと一緒にお祈りしたりする姿も見られるのですが、
一方で、特別編(玄の誕生日)において、「最近はそういうこともなくなったけど」と付け加えつつも
お母さんの写真があまり残っていないことに、幼い頃憤慨していたという姿も描かれています。
母を失ったという事実を、自分の中で受け止めて消化するには、やはり時間がかかったのではないでしょうか。
おとぎ話をおとぎ話として、「叶えられればいいな」くらいの淡い夢と受け止めることも。

そんなことから、「私の一番のサンタはもういないけど、私がサンタになってみんなを喜ばせることはできるかも」
という流れになりました。
ちょうど桜子の誕生日と隣接していることもあり、みんなでお祝いして、楽しませようとがんばってくれるかなーと。
「よくひとまとめにされるからっ!」って序盤でネタにしましたが、この日が桜子の誕生日でよかったです。
おかげでつたないなりにも、イメージを広げて描くことができました。


お誕生日おめでとう、桜子。そしてメリークリスマス、です。




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