それは、年に一度だけ4月12日になると姿を見せると言う…


『伝説のモンスターが現れた!』


コマンド?



⇒やられる

⇒くわれる

⇒ぜんりょくで ゴメンなさい する

 しんえんに のまれし ぜつぼう  1ひき



 



綾「いやいやいや。ちょっと待ってちょっと待って」

玄「どうしたの?綾ちゃん」

綾「どーしたも、こーしたも、何これ。どういうこと?」


ひな「タヌキさんが…」

桜子「すっげぇ変身してる」

ひな「ダークたぬき」

桜子「かっこいい!」

綾「じゃなくて!」


玄「綾ちゃん…」がしっ

綾「な、なに?」

玄「人にはね、どうしても前に向かわなければならない時があるものなのですよ」

綾「はい?」

玄「そして今まさにその時なのです」

綾「くろ、ちゃん?」

ひな「くろちゃー、ひさしぶりにスイッチが入っているものと推測されます」

桜子「キリっときめようとしてる時、あんなふうにちょっとかしこまったしゃべり方になるんだよね」


玄「とにかく、私たちはあのタヌキさんを…
  深淵に飲まれし絶望さんを、浄化しなくてはならないのです!」

綾「なんで私たちで??」

玄「ならないのです!」

桜子・ひな「おー!」

綾「えー…」





玄「これは戦いではありません。
 愛をもって接すれば、きっと心を開いてくれるはずなのです!」

ひな「どこかのモンスター使いさんみたいな台詞だねっ」




『くろちゃん日和O〜vs深淵に飲まれし絶望!〜』





玄「ということで、まずは身支度から。みんなの服を用意しました!」

桜子「またお手製だ」

ひな「非常に気合が入っている模様」

綾「クリスマスの時はサンタだったけど、今回のこれは…私、制服?それも阿知賀じゃないやつ?」

桜子「私のはキツネ…と巫女さんっぽい?」

ひな「タヌキさんの耳にメイド?みんなバラバラだ」

綾「戦闘服っぽいの玄ちゃんだけだよね」



玄「桜子ちゃんとひなちゃんには余興として、タヌキさんを楽しませてあげてください!」

桜子・ひな「イエッサー!」ピ

綾「あ、それで二人その格好なんだ」

玄「そう。ここで場が和んだところに…私がドラゴンを、召喚!」ボンッ

桜子「うおー、おっきいのきたっ!」

ひな「これぞプロさんの言ってた『阿知賀のドラゴンロード』ってやつだよー!」

玄「ふふふ、さあ、このドラゴンの炎で…」

綾(なるほど二人が注意を引きつけているうちに仕掛けるんだ。すごい、ちゃんと考えてある)



玄「お肉を焼きます」

綾「肉!?」

桜子「おっきい肉ー」

綾「…もしかして、やまたのおろちの伝説みたいに、食べたら眠るとか、何か仕込んであるとか」

玄「まさか、旅館の娘たるもの、料理をけがすことなんてできない。
  ただただ、お客様のおなかと心を満たしたい…それだけだよ」

ひな「あ、玄ちゃん、なんか『私ちょっとカッコいいこと言ったかな?』って顔してるー」

玄「えへへ」

綾「いやいやいや」





綾「ま、まあ…ここまではいいとして
  そうすると私は何の役なの?どこのかわからないけど、どうして制服?」

玄「綾ちゃんにはさらにこれを用意しました!」

綾「竹刀?」

桜子「あー」

ひな「あー」

玄「この竹刀をまっすぐ前に構えると…」

綾「すると…?わ、なんだか熱くなってきたっ!?」

玄「そして剣道で言う『突き』の攻撃部分となる先端から炎がボッ!」

綾「わわっ」

桜子「おー、かっこいー」

玄「仕掛けはバッチリだね。さあ、綾ちゃんはその竹刀で…」

綾「ま、まさかアトミックファイヤーブレード…?」



玄「ろうそくに火を灯してください」

綾「キャンドルサービスじゃない!」

玄「そうだよ?」

綾「これじゃ武器にならないよ?」

玄「戦うんじゃないって、最初っから言ってるよー?」

綾「ツッコミどころ満載だよ!」





ひな「でもでも、玄ちゃん。
    ろうそくはわかったけど、肝心のケーキがないよ?」

玄「ふふふ、そのへんもぬかりなく。
  今回はさらにさらに、頼もしい3人の助っ人が来てくれているのです!」

桜子「めっちゃ用意周到だね」

玄「まずはあちらをごらんください!」

ひな「玄ちゃん、バスガイドさんみたい。…あれ?お空を翼が生えた人がこっち飛んでくる」

桜子「しかもその上に誰か乗ってる」

綾「あれって」



  「のどちゃー!」「しずちゃー!」



桜子「おおー天使みたいな格好したのどちゃんと」

ひな「でっかい輪みたいなのを背負った穏乃ちゃんだ!あれって蔵王権現様かなー?」

綾「ん…でも、穏乃ちゃんが背負ってるあれって…権現様の炎じゃなくて」



ひな「いちご?」

桜子「いちごだね」

和「いちごですよ」

綾「うん、なんかもうそうなんじゃないかなーと思ってた」


穏乃「デコレーションなら任せて。玄さんの誕生日の時にもやった!」グッ

玄「あの時は、おかーさんやおねーちゃんまで作ってくれてありがとう。嬉しかったよー」

穏乃「はい!今回もおまかせあれ!」

玄「おまかせしましたっ」

和「そして、出来上がったケーキを私に切り分けてほしいとのことです」

桜子「手に持ってるそれ、ケーキナイフなんだ!」

ひな「必要以上に豪華だ!」



桜子「ところで、しずちゃんとのどちゃんが来てくれたのは嬉しいけど、あこちゃんはいないの?」

和「さすがに2人も乗せてはこれませんので」

穏乃「代わりに憧の気持ちも、私が身につけてきた!」

ひな「その制服、憧ちゃんのなんだ」

桜子「いつものジャージは?」

穏乃「交換で憧が着てる。…『きつくない』って落ち込んでた」

和「…あえて詮索はしませんからね」





綾(…ああ、わかったわかった。今頃わかった)

綾(これ夢だよ。だって穏乃ちゃんどころか、長野へ行ったはずの和ちゃんがいる上に
  和ちゃんがこの状態を見て『そんなオカルトありえません!』って言わないんだもの)

綾(それに、3人の助っ人のうちの最後の1人…)





慕「私は鳥さんを呼んで、プレゼントを運んでもらえばいいんだね?」

玄「よろしくお願いします!」

慕「うん、がんばる」

ひな「今なら和ちゃんのエトペンも一緒についてきます」

慕「わぁ、ありがとう」


玄「ところで修学旅行はどうでした?広島に行かれたんですよね?」

慕「うん、楽しかったよ!…って、あれ、どうして行き先知ってるの?」

玄「ふふっ、いつか吉野にも来てくださいね。松実館でお待ちしてます!」

慕「???…なんだかよくわからないけど…わかった!」





綾(…うん、まあ夢だろうから)

綾(目が覚めたとき、どこまで覚えてられるかわからないけど…)

綾(夢なら…こういう夢も…アリ、かな)


綾「よーし、じゃあ、私は二人が作ってくれたケーキのろうそくに火をつければいいんだね!」

玄「うん!ケーキはなんといっても誕生日の華だから、よろしくね!」

綾「わかった、私もがんばる!」





玄「あっ…そうだ、大事なこと言い忘れてた。『暗黒絶望波』にだけは注意してね!」

綾(ピクッ)「あ、暗黒絶望波…?何、それ?」

玄「えーとね、『タヌキさんに関する具体的な数字』をひけらかした者に
  『好きな人からゴキブリのごとく嫌われる呪い』がかかるんだって」

ひな「絶望!」

綾「何それ!私が一番危険じゃないの!?
  だって、ケーキのろうそくに火をつける役だよ。どう考えたって目の前まで接近するんだよ?」

玄「大丈夫、具体的な数字をひけらかさなければ問題ないみたいだよ!」

綾「ろうそくの数はっ?」

玄「そこはそれ、大きめのろうそく一本だけにしてあるから」

綾「そ、それなら…」



ひな「でも、一本ってビミョーな気がするなぁ」

玄・綾「えっ?」

桜子「なんで?」

ひな「だって、ホラ、タヌキさんのプロフィールを見ると、今年のその具体的な数字って…」

玄・綾「…」

桜子「あー。これ以上言わない方がよさそうだけど、あー」

玄「だ、大丈夫だよ。きっと大丈夫だよ」

綾「絶対ろくな根拠もなく言ってるでしょ、それー!」

玄「耳が痛いです!」



ひな「あはは、そんなに心配しなくてもいいってば」ポンポン

綾「なんでそんな風に言い切れるの?」

ひな「だってータヌキさんの呪いって『好きな人からめちゃくちゃ嫌われる』んでしょ?
   綾ちゃん、そーゆー人、いるの?」

綾「……っ」

桜子「そっか。綾ちゃんにそーゆー人がいなければ、何の問題もないんだ!」

綾「…………」

玄「念のため聞くけど、大丈夫?」

綾「……………………」



綾「…そうだね、大丈夫だよね。そういうんじゃないもんね!平気だよねっ!」

玄「う、うん。気を付けて、ね?」


ひな(明らかにヤケが入っているものと思われますが)

桜子(そーっとしといた方がよさそうだね)





玄「じゃあ、みんなーそれぞれ持ち場についてー」

「「了解ー」」

綾(大丈夫、これは夢。大丈夫、これは夢)



玄「がんばるよっ―――!」














玄「人間ね、真剣になる時ももちろん大切だけど、
  あんまり根をつめすぎると、つかれちゃったりして」

玄「だから、時々は心を思いっきり開放して、はめをはずすのも大事だと思うよ」

ひな「あんまりはずしすぎると、あとで後悔することもなくはない?」

玄「あー、まあ、そういうのもないこともないだろうけど…
  でも、いつもと違ったことをすれば、いつもとは違った景色も見えるだろうし…」


玄「そういうちょっと疲れた人を迎えて、癒せる場所になれればいいなぁって思うんだ」

綾「無理やりいい話に持っていこうとしてるでしょ」

桜子「あ、無事生還した」

玄「大丈夫だった?」

綾「…うん、何ともないみたい。よかった…ほんと、よかった…」

綾(これってどこまでが夢だったのかなぁ)



玄「あはは、お疲れ様。みんなも来てくれてありがとう。楽しかったよー」

玄「みんなの労はこれからねぎらうとして」

玄「まずは、みんなで一緒に!せーの!」





「「お誕生日おめでとうございます!!」」






穏乃「和っ!次は決勝で会おうっ!」
 





 


なんだかもう、これもう
線画を起こしてる時は、どんなシチュエーションにしようか考えるの楽しかったんですけど
台詞つきの文章にすると…今さらですが、なかなか恥ずかしいものですね!(笑)


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