キャラクター及び作品紹介のページ その17

夏森永久(なつのもり とわ)
(登場作品 Clear「てのひらを、たいように」)


川の音が聞こえる場所。
水郷の里。
ぼくたちはそんなところに住んでいた。
家から少し歩くと山があって、そこには大きな芙蓉の樹がある。
そんな風景の中でぼくたちは過ごしてきた。


夏休みも近いある日。
ぼくたちの通う学校に一人の女の子が転校してきた。
女の子の名は永久。
明るい笑顔と淡く透き通るような髪が印象的な少女だった。
だが、初めて会ったはずの彼女の顔にぼくはどこか見覚えがあった。


夢を見た。
芙蓉の樹の下にある土を掘り返す夢を。
何か大切なものが埋まっている。
だからぼくたちは土を掘り返した。
手が痛くなるまで、ずっと……。



そして夏休みが始まる。
蒼穹と純白で彩られた季節の中でぼくたちは無邪気な時間を過ごしていく。
やがて目の前に現れる出来事も知らないままに。

水郷の里。

その名前とは別のもう一つの名。

さとりの里……そうとも呼ばれるこの町の中で。


ぼくたちは彼女を助けたかった。






またまたPCゲームからの出展です。PS2・DCへの移植版もあります。
上記の文は、この作品をコンシューマ用として発売したプリンセスソフトのHPで
話の概要として紹介されている文章を持ってきたものです。
多分、本家のClearでも同様の文があったのでしょう。


「てのひらを、たいように」
2003年1月24日に発売されました。
発売時期は真冬ですが、作品舞台は思いっきり真夏。
7月の七夕から8月のお盆にかけて、
主人公「春野明生(はるの あきお)」、幼馴染の「佐倉穂(さくら みのる)」「吉野美花(よしの みか)」
そして「夏森永久(なつのもり とわ)」
この4人が、彼らの住むふるさとに古くから伝わる存在「さとり」の話を絡めながら
駆け抜けていく友情物語です。

ええ、友情物語です。まごうことなく。
もちろん、元はPCの恋愛ゲームですから、明生と穂・美花・永久との恋愛シーンもあるわけですが、
それを含めても、やはりこの作品は友情こそがメインです。
この4人の中で誰一人欠けても、話が成立しません。


とはいうものの、この4人は物語当初から一緒だったと言うわけではありません。
ていうか最初はバラバラです。作品世界の空気も重いです。
マニュアルの登場人物紹介では「クセはあるけど愉快なメンツ」みたいに書かれているので
それを踏まえて冒頭だけ見ると、そのギャップに「??」となること請け合い。
そう、最初は「話が違う」「こんなはずではない」のです。
昔は仲良しでいつも一緒だったはずなのに、明生と穂・美花とはいつしか疎遠になり
永久とに至っては、上記の文章に「初めてあったはず」「どこか見覚えがあった」とあるように
かつて関わっていたことを覚えてさえいませんでした。
幼い頃は野山をかけめぐって冒険した活発な少年が、今では無気力な青年に。
時間の流れがもたらした残酷な現実、と言えばそれまでのようですが、
彼らの性格・関係の変貌には、「それまで」で片付けられない、重大な問題があったのです。

・・・ということで、この物語は、
まず永久が明生と再会したことで、徐々に昔の自分・友人関係を取り戻していくこと。
そして再び一丸となった4人が、自分たちの住む町を取り巻く、
かつて自分たちを引き裂いたきっかけとなった問題にぶつかっていくこと。
この2つがメインテーマになっています。
また、この「てのひらを、たいように」は「てのひらを」編と「たいように」編の二つに分かれており、
ここまで説明した4人が主に出てくるのは、「てのひらを」編です。
「てのひらを」編を最後までプレイすると、明生たちがぶつかっていった事件について
今度は別の人物の視点から見るという試みの「たいように」編に入れる仕掛けになっています。





では、今回紹介した物語のキーマンでもある、永久について少し。
上記の通り、主人公明生の幼馴染です。数年ぶりに再会しました。
永久は明生たちに会うのが楽しみで楽しみで、それで学校に来たわけですが・・・
肝心の明生たちが永久のことをきれいさっぱり忘れてしまっています。
そりゃあもう、ものすごいショックだったことでしょう。やっと会えたと思ったのにって。
でも永久はめげません。何とか仲良く出来ないものか、
今はバラバラになってしまった明生・穂・美花と、そして自分と、4人の関係を取り戻せないものか
一生懸命考えて努力します。で、最初にとった行動がコレ↓

「あ〜き〜お〜ちゃ〜ん!がっこ、いこ〜!」

そりゃ無気力状態の明生もコーヒー吹くわな(笑)


この子は基本的には天然です。でも天然ボケですが、それでいて結構色々考えています。
おせっかいでもありますが、いつも笑顔で周りを和ませてくれるし、何より友だち思いなんですね。
そこが永久の魅力かと。

あと声が素敵、はまりすぎ。
永久の担当は「まきいづみ」さんで、PCゲームの声優ではかなり有名な方だそうですが、
ふにゃっとした、やわらかい感じの声が永久にぴったりです。
この声のおかげで、ゲーム中に時折現れる深刻な場面もオブラートに包んでくれている気がしますし、
あるイベントで聞ける「ドレスの歌」はいっぺん聞いたらしばらく耳から離れないと思います。
間抜けすぎて(※誉め言葉です)


この物語もゲームなので、いくつかバッドエンドが用意されているのですが
それらの終末では総じて「永久がいなくなります」
ダメですよ?いなくならせちゃダメですよ?
名目上の理由は「再び転校」ですが、実は・・・なので。(ゲームを最後までプレイすると自ずとわかります)
こんなけなげな子にいつまでも寂しい思いをさせるわけにはいかないじゃないですか!ねえ?





ところで、一番最初の文は移植したメーカーのHPから引っ張ってきたと書きましたが、
じゃあ本家本元のClearはどうしたんかい、というと、もうありません。
「てのひらを、たいように」を出した2003年の7月発売の作品を最後にブランド解散してしまっています。
それに、その7月に出た作品は、Clearが以前に作ったゲームのリメイク版だったので、
新作としては、事実上、この「てのひらを、たいように」及び
これの追加ディスクにあたる「てのひらを、たいようにAB」がラストだったということ。
なんだか聞きかじった話だと、製作スタッフに配当を回せなかったとか何とか…
何にせよ、これを作ったその年には既に経営が立ち行かなくなったのは否定できない事実で、
浮き沈みの激しい業界の哀愁をひしひしと感じます。

でもClearというメーカーはなくなってしまいましたが、
それまでに作ったものまで忘れ去られたわけではありません。
私もそうですが、発売して6年以上経った今でもこのゲームが好きという人もいらっしゃるようですし、
それに、前述の通り、夏森永久の声を担当したのはまきいづみさんで、
現在に至るまで、非常に多くの作品で演じておられる方ですが
そのまきいづみさんが、以前ご自身のブログ内で
この作品のことを「初期からの、ぶっちぎりのお気に入り」だと記されていました。

毎年星の数ほど現れて、一度は姿を見せてはくれるけど、大半は脚光を浴びぬままに沈んでいく。
ゲームに限った話ではないですが、そうやって埋もれていったものって一体どれほどあるのやら。
そんな中で、幾らかの人の記憶に残った永久、そして「てのひらを、たいように」
とても幸せなことではないかと思うのですよ。





最後に、このゲームのタイトル「てのひらを、たいように」のこと。
OPテーマの曲名にもなっているこのフレーズですが、
これを聞いて真っ先に思い浮かぶのは、やはりアンパンマンの作者でもある
やなせたかしさんが作られたあの曲でしょう。
でも、このゲームの中であの曲の歌詞が出てくることはありません。
じゃあなんでこのタイトルにしたんだろうと思ったんですが、今頃になってわかった気がします。
この話にはミミズも、オケラもアメンボも出てきませんが・・・

「みんなみんな生きているんだ。友だちなんだ」からなんですね。きっと。